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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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Scene 6 追い出し作戦

「出ていきなさい」


レティシアがそう言った直後。


魔獣は、すっと立ち上がった。


「おっ」


ニーナが少し身構える。


魔獣は二人を見た。


そして――。


スタスタスタッ。


「ちょっと!」


逃げた。


「待ちなさい!」


レティシアが追いかける。


魔獣は廊下を曲がり、階段を下り、物置の中へ飛び込んだ。


「どこへ行ったの!」


「お嬢様、そちらです」


「分かってるわ!」


レティシアが物置へ入る。


しかし。


「……いない?」


魔獣の姿がない。


その直後。


「グル……」


背後から声がした。


「――え?」


振り返る。


魔獣が反対側の扉から出ていくところだった。


「このっ……!」


レティシアが追う。


魔獣は逃げる。


追いかける。


また逃げる。


まるで二人をからかっているかのようだった。


「こら!」


「…………」


「待ちなさい!」


「…………」


「聞いてるでしょう!」


「…………」


返事はない。


当然だった。


相手は魔獣なのだから。


――しばらくして。


レティシアは作戦を変更した。


「……追いかけるから逃げるのよ」


「では、どうします?」


「餌で誘導するわ」


ニーナが用意した食料を、廊下の先に置く。


魔獣は少し離れた場所から、それをじっと見ている。


「ほら」


レティシアが指差す。


「食べたければ外へ行きなさい」


魔獣が近づいてくる。


一歩。


また一歩。


そして――。


ぱくっ。


「よし!」


レティシアが扉を開ける。


「そのまま外へ――」


魔獣は餌だけをくわえた。


そして。


くるり。


屋敷の中へ戻っていった。


「…………」


「…………」


「…………」


「……あの子、餌だけ持って帰りましたね」


ニーナが呟く。


レティシアの眉がぴくりと動く。


「ええ」


「賢いですね」


「褒めないで」


さらに別の作戦。


扉を開け放つ。


「ほら。出口は開いているわよ」


魔獣は出口を見る。


レティシアを見る。


もう一度、出口を見る。


そして――。


その場に座った。


「…………」


「…………」


「出る気、ありませんね」


「ないわね」


今度は箒を持ち出した。


「なら、追い出すまでよ!」


「お嬢様、箒は掃除道具です」


「今は追い出し道具よ!」


レティシアが箒を振る。


魔獣が逃げる。


「こら!」


右へ。


左へ。


階段を上がり、廊下を走り、別の部屋へ。


「待ちなさい!」


バタン!


「……あっ!」


魔獣が扉の向こうへ消える。


レティシアが扉を開ける。


「――いない?」


その頃には、ニーナも追いかけることを諦めていた。


ただ静かに、その様子を見守っている。


そして。


数時間後。


「…………」


「…………」


「…………」


屋敷の廊下には、散らばったクッション。


倒れた椅子。


開けっ放しの扉。


そして、床に転がった一本の箒。


レティシアは壁にもたれかかっていた。


ニーナも疲れた顔で立っている。


そして魔獣は――。


何事もなかったかのように、少し離れた場所に座っていた。


「…………」


「…………」


「…………」


三者の間に、長い沈黙が流れる。


やがて。


レティシアが魔獣を見る。


「……こいつ」


魔獣もレティシアを見る。


「…………」


「思ったより頭がいいわね」


ニーナが呆れたように言った。


「そこを評価するんですか?」


「だって、私たちより一枚上手なのよ」


「それは……そうですが」


魔獣が、まるで勝ち誇るように尻尾を一度だけ振った。


レティシアの目が細くなる。


「……今、絶対馬鹿にしたでしょう」


「…………」


「その顔はそうよね?」


ニーナは深くため息をついた。


黒薔薇館から魔獣を追い出す作戦は――。


完全に失敗した。


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