Scene 5 「追い出すわよ」
レティシアは、地下室の中を改めて見回した。
床には爪痕。
壁には引っかいたような傷。
隅には食べ荒らされた食料。
どう考えても、この魔獣が屋敷に住み着いてからついたものだ。
「…………」
レティシアは腕を組んだ。
人を襲った形跡はない。
こちらに対しても、警戒はしているものの、今のところ襲ってくる様子はない。
けれど。
「勝手に住み着いて、屋敷を傷つけて、食料まで食べている……」
魔獣を見る。
魔獣もレティシアを見る。
「決めたわ」
レティシアは堂々と言った。
「追い出すわよ」
「はい」
ニーナも頷く。
その言葉を聞いた魔獣が、わずかに身構えた。
「グル……」
「何よ」
レティシアは一歩前へ出る。
「ここは私の屋敷よ」
「あなたの家ではないでしょう」
「細かいことはいいの」
ニーナの冷静な指摘を、レティシアはあっさり流した。
そして、魔獣に向かって指を突きつける。
「出ていきなさい」
「…………」
魔獣は黙っている。
「聞いてる?」
「…………」
「ちょっと」
レティシアの眉がぴくりと動く。
「無視する気?」
「…………」
魔獣は何も答えない。
ただ、じっとレティシアを見ている。
「…………」
「…………」
しばらくして、レティシアが腕を組み直した。
「……失礼な獣ね」
ニーナが横から口を挟む。
「魔獣です」
「どちらでもいいわ」
レティシアは少しむっとした顔で魔獣を見る。
「私はね、王都でもさんざん無視されてきたのよ」
「それとこれとは関係ないと思います」
「関係あるわ」
「ありません」
「あるの!」
魔獣は、そんな二人のやり取りを黙って見つめている。
そして。
「…………」
ほんの少しだけ、首を傾げた。
レティシアはそれを見逃さなかった。
「……何よ、その顔」
「グル……」
「だから、そうやって誤魔化さないで!」
ニーナは小さくため息をついた。
どうやら。
この屋敷から魔獣を追い出すのは、思っていたより簡単ではなさそうだった。




