Scene 3 幽霊の正体
夜。
黒薔薇館は、昼間とは別の顔を見せていた。
最低限の掃除を終え、明かりを落とした屋敷は、しんと静まり返っている。
風が窓を揺らすたび、古びた建物が小さく軋んだ。
レティシアは暖炉のそばにある椅子に座り、本を読んでいた。
その隣では、ニーナが紅茶を淹れている。
「……静かね」
「そうですね」
「王都より、ずっと静かだわ」
「それはよかったですね」
「ええ」
レティシアがページをめくる。
そのときだった。
――カタン。
「…………」
レティシアの手が止まった。
ニーナも動きを止める。
「……またね」
「はい」
二人とも、音がした方向を見る。
「やっぱり何かいるわね」
レティシアは本を閉じ、立ち上がった。
「行きましょう」
「はい」
今度は二人とも、妙に素直だった。
廊下へ出る。
昼間よりも暗い屋敷の中を、ゆっくりと進んでいく。
コツ。
コツ。
二人の足音だけが響く。
そして――。
――ズズ……。
「…………」
奥の部屋から、何かを引きずるような音がした。
レティシアとニーナが顔を見合わせる。
「今のは、かなり怪しいわね」
「はい」
レティシアが扉に手をかける。
ゆっくりと開く。
――ギィ……。
「…………」
誰もいない。
部屋の中は真っ暗だった。
「……何もいませんね」
ニーナが呟く。
レティシアは部屋の中へ入った。
そして、足元を見る。
「……待って」
「はい?」
「これを見て」
床には、何かを引っかいたような跡が残っていた。
細く、鋭い。
しかも、一つではない。
その先には――。
「……食べ物?」
床の隅に、食べかけの食料が落ちている。
さらに、その周辺には小さな爪痕がいくつも続いていた。
それは部屋の奥へ。
さらに、屋敷の暗がりへと続いている。
レティシアはしゃがみ込み、跡をじっと見つめた。
「…………」
そして、立ち上がる。
「幽霊じゃないわね」
ニーナが首を傾げる。
「なぜ分かるんです?」
レティシアは当然のように答えた。
「幽霊が食事をすると思う?」
「…………」
ニーナは床に落ちている食べ物を見る。
「……確かに」
レティシアは腕を組んだ。
「つまり、この屋敷には――」
廊下の奥。
暗闇の中で。
何かが、かすかに動いた。
「――何かが住み着いているわね」




