Scene 2 幽霊屋敷
黒薔薇館の玄関をくぐった二人は、長い廊下を歩いていた。
古い屋敷だけあって、床板はところどころ軋み、壁には年代物の絵画が掛けられている。
静かだった。
静かすぎるくらいに。
「……そういえば」
ニーナが、ふと思い出したように口を開いた。
「この屋敷について、少しお話ししておきたいことがあります」
「何?」
「夜になると、うめき声が聞こえるそうです」
「…………」
レティシアの足が止まった。
「……他には?」
「廊下を誰かが歩く音が聞こえたり」
「…………」
「誰もいないはずの部屋から物音がしたり」
「…………」
「窓に人影が映ることもあるそうです」
レティシアはゆっくりと屋敷を見回した。
古い壁。
薄暗い廊下。
今にも何かが出てきそうな雰囲気。
「……それ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ではないかもしれません」
「先に言いなさいよ!」
思わず声を荒らげるレティシア。
ニーナは平然としている。
「ですが、もう住むことは決まっていますので」
「そういう問題じゃないでしょう!」
「ちなみに、以前ここで働いていた使用人たちは、何人か逃げ出したそうです」
「だから先に言いなさいって!」
レティシアは改めて廊下の奥を見る。
「つまり、幽霊が出るのね?」
「そのようです」
「幽霊なんて存在するの?」
「私に聞かれても困ります」
「……そうよね」
レティシアが腕を組む。
「まあ、幽霊くらいなら――」
――ガタン。
「「…………」」
二人の動きが止まった。
今度は、はっきり聞こえた。
屋敷の奥から。
何かが動いた音。
レティシアがゆっくりと振り返る。
「……今のは?」
「知りません」
「見てきなさい」
「なぜ私が?」
「使用人でしょう?」
「お嬢様の侍女です」
「同じでしょう」
「違います」
「…………」
「…………」
しばらく無言で見つめ合う。
レティシアがため息をついた。
「……仕方ないわね」
「はい」
「二人で行くわよ」
「最初からそうおっしゃればよかったのでは?」
「あなたが先に行けばいいでしょう!」
「私はお嬢様の侍女ですので」
「今、自分で違うと言ったでしょう!」
古びた黒薔薇館に、二人の声が響いた。
――そして。
そのさらに奥で。
何かが、静かに動いた。




