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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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第7話「黒薔薇館」 Scene 1 黒薔薇館

北西辺境グランフェル。


その街の外れに、一軒の古びた屋敷が建っていた。


周囲には高い塀。


その向こうには、長い年月を経た石造りの建物が静かに佇んでいる。


鉄門には黒い薔薇の蔓が絡みつき、庭には伸び放題の雑草。


いくつかの窓は割れたままになっていた。


どう見ても――。


「……幽霊が出そうですね」


ニーナが呟いた。


その隣で、レティシアは屋敷を見上げている。


「ここが、お嬢様のお住まいです」


「……これが?」


「はい。黒薔薇館です」


「趣味が悪い名前ね」


「昔からそう呼ばれているそうです」


レティシアは鉄門から屋敷までを眺めた。


古い。


とにかく古い。


壁にはところどころひびが入り、庭は手入れされている様子がない。


黒薔薇の蔓だけが、まるで屋敷を覆い隠すように伸びている。


王都にあるヴァレンフォール侯爵家の屋敷とは、比べるまでもない。


豪華さもない。


華やかさもない。


人の気配すら、ほとんどない。


「…………」


ニーナが恐る恐る尋ねる。


「お嬢様……本当に、ここでよろしいのですか?」


レティシアはしばらく黙っていた。


そして。


「……まあ、悪くないわ」


「本当にそう思ってます?」


「王都の屋敷より静かでしょう?」


「それは……そうですが」


レティシアはもう一度、黒薔薇館を見上げた。


静かな屋敷。


人の目もない。


誰かが自分をどう評価しているか、気にする必要もない。


「それに」


レティシアは鉄門に手をかける。


「追放された私には、これくらいのほうがお似合いでしょう?」


「お嬢様」


ニーナが少し困ったような顔をする。


けれどレティシアは気にせず、門を開けた。


――ギィィィ……。


古びた鉄門が、不気味な音を立てる。


レティシアは眉をひそめた。


「……油くらい差しておきなさいよ」


「屋敷に言っても仕方ありませんよ」


「分かってるわよ」


そう言いながら。


レティシアは黒薔薇館へと歩き出した。


このときの彼女は、まだ知らなかった。


この古びた屋敷には――。


彼女たち以外にも、すでに住人がいることを。


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