Scene 8 「すげえ!」
水路が正常に流れ始めると、住民たちは一気に騒がしくなった。
「すげえ!」
「本当に直しちまった!」
「仕事が早いな!」
「これで畑も大丈夫だ!」
次々と声が飛んでくる。
レティシアは少しだけ目を丸くした。
「……当然よ」
また、その言葉だった。
けれど。
今度は、口元がわずかに緩んでいる。
それを見たニーナが、すかさず口を挟んだ。
「お嬢様、嬉しそうですね」
「別に」
「そうですか?」
「そうよ」
レティシアはそっぽを向く。
「当然のことをしただけよ」
「はいはい」
「何よ、その言い方!」
「いえ、別に」
「絶対何か思ってるでしょう!」
「何も」
「なら、その顔をやめなさい!」
ニーナは笑いをこらえながら、深々と頭を下げた。
「申し訳ありません」
「……まったく」
レティシアは頬を膨らませる。
けれど。
その表情は、王都にいた頃よりずっと楽しそうだった。
住民たちはそんな二人を気にすることなく、完成した水路を眺めている。
「これでしばらく大丈夫だな」
「ああ」
「助かった」
「レティシア様に頼んで正解だったな」
「…………」
その言葉に、レティシアは少しだけ振り返った。
「……そう?」
「ああ」
「……そう」
レティシアは小さく頷いた。
そして、また水路を見る。
流れていく水は、もう濁っていない。
静かに。
当たり前のように。
村へ向かって流れている。
「……当然よ」
三度目のその言葉は。
今までより少しだけ、嬉しそうだった。




