Scene 6 ちょっとしたトラブル
修理は順調に進んでいた。
崩れた石を取り除き、新しい石を組み直していく。
もう少しで終わる。
――そのときだった。
「……あれ?」
住民の一人が、置いた石を押さえた。
ぐらり。
石がわずかに動く。
「レティシア様」
「何?」
「これじゃ動くぞ」
レティシアは振り返った。
「……見せて」
「ほら」
石を軽く押す。
確かに、少し動いてしまう。
レティシアはしゃがみ込んだ。
石の位置。
水の流れ。
周囲の土。
そして、支えている部分。
しばらく黙って確認する。
「…………」
「どうだ?」
「……貸して」
「え?」
「いいから」
レティシアは石を一度動かした。
そして、その下を確認する。
「やっぱり」
「何が?」
「支える場所が悪いのよ」
レティシアは別の場所を指差した。
「ここ」
「ここに置くのか?」
「ええ」
石を少しずらし、別の位置へ置き直す。
今度は――。
ぐらりとも動かない。
住民が石を押してみる。
「……おお」
もう一度押す。
「動かない」
「でしょう?」
レティシアは立ち上がった。
「最初から考えて置きなさいよ」
「悪い悪い」
「まったく……」
呆れたように言うレティシア。
けれど、住民は気にしていない。
むしろ楽しそうだった。
「レティシア様、こういうの得意なんだな」
「…………え?」
レティシアの動きが止まった。
「何よ、急に」
「いや。見ただけで、どこが悪いか分かるんだろ?」
「それは……」
レティシアは水路を見る。
「普通でしょう?」
「俺には普通じゃないけどな」
「…………」
レティシアは少しだけ目を見開いた。
王都では。
自分の鋭さは「怖い」と言われた。
すぐに問題点を指摘すれば「細かすぎる」と言われた。
間違いを見つけて言えば「人の欠点ばかり探している」と言われた。
けれど。
ここでは。
「得意なんだな」
ただ、それだけだった。
「…………そう」
レティシアは小さく呟いた。
「まあ……そうかもしれないわね」
ほんの少し。
口元が緩んだ。
「じゃあ、次の石を持ってきてくれる?」
「ああ!」
住民はすぐに走っていった。
その背中を見ながら、レティシアはもう一度水路へ視線を戻す。
――自分が嫌われる理由だったものが。
場所が変われば、誰かの役に立つ。
そのことを、レティシアはまだ知らなかった。
ただ。
少しだけ。
ここでなら、自分のままでいてもいいのかもしれない。
そんな気がした。




