Scene 5 レティシア、修理開始
「そっちの石、持ってきて」
「お、おう!」
レティシアの声が飛ぶ。
水路の周囲では、住民たちが忙しそうに動き始めていた。
「違う。それじゃ大きすぎるわ」
「これか?」
「そう。それをこっちへ」
「分かった!」
レティシアは崩れた場所を確認しながら、次々と指示を出していく。
「その板を支えに使って」
「こうか?」
「そう。もう少し右」
「ここ?」
「そこ。動かさないで」
「お、おう!」
一人が板を押さえれば、別の住民が石を運ぶ。
その間にもレティシアは、水路の状態を確認していた。
「そっち、もう少し持ち上げて!」
「今やる!」
「違う、そっちは触らなくていいわ!」
「お、おう!」
次々と飛んでくる指示。
その声は決して優しくはない。
けれど。
何をすればいいのかは、はっきりしている。
迷っている暇がない。
住民たちも、言われた通りに動けばいい。
作業は驚くほど早く進んでいった。
少し離れたところで、ニーナがその様子を見つめていた。
(お嬢様……)
王都にいた頃。
レティシアは、よく言われていた。
――人に命令するなんて、高慢だ。
――もう少し柔らかく言えばいいのに。
――あんな厳しい言い方をしなくても。
けれど。
ここでは違った。
「次、そこの石を!」
「おう!」
「その板はもういいわ。外して!」
「分かった!」
指示が具体的だから、仕事が早い。
住民たちも迷わない。
ニーナは小さく息を吐いた。
(……環境が変わると、こうも違うものなのですね)
当の本人は、そんなことには気づいていない。
「そこ! ちゃんと押さえて!」
「押さえてる!」
「もっとしっかり!」
「分かった!」
レティシアは真剣そのものだった。
「……よし。次よ」
その横顔には、王都で見せていたものとは違う表情が浮かんでいた。
苛立ち。
焦り。
そして――仕事に集中する楽しさ。
「レティシア様」
住民の一人が声をかける。
「次はどうする?」
「次は――」
レティシアは水路を見渡した。
そして、迷うことなく答えた。
「そこを直すわ」
「了解!」
誰も嫌な顔をしない。
誰も「口の利き方が悪い」と言わない。
ただ、彼女の指示に従って動いている。
レティシアはそれを、不思議そうに眺めた。
(……変なの)
王都では、同じように話していただけで嫌われた。
なのにここでは。
仕事が進んでいる。
それどころか――。
「レティシア様、次はこれでいいか?」
「ええ。持ってきて」
「分かった!」
また一人、彼女の指示を待っている。
(……どうして、こっちでは何も言われないのかしら)
レティシアは首を傾げながら、再び水路へ向き直った。
今は考えている暇などない。
「ほら、次よ!」
「おう!」
こうして修理は、順調に進んでいった。




