Scene 4 「誰でも直せるでしょう」
レティシアは水路の前で腕を組んだ。
「で?」
「で?」
「直すんでしょう?」
「ああ」
「だったら――」
レティシアは周囲を見回した。
「道具は?」
「ある」
即答だった。
「石は?」
「裏に積んである」
「人手は?」
「俺たちがやる」
「…………」
レティシアは少しだけ目を細めた。
なるほど。
必要なものは揃っている。
なら――。
「簡単じゃない」
「じゃあ頼む」
「…………」
まただった。
この男、本当に自分にやらせるつもりらしい。
レティシアは額を押さえた。
「……本当に私がやるの?」
「相談したのは俺たちだが、直せるのはお前だろ?」
「…………」
なんとも身も蓋もない。
王都なら、こんな言葉を聞くことはまずない。
令嬢に仕事を頼むなら、もっと遠回しに。
もっと丁寧に。
そして何より――。
令嬢本人が手を動かすことなど、想定していない。
けれど。
ここには、そんな遠慮は存在しなかった。
「…………はぁ」
レティシアは大きく息を吐いた。
そして。
ゆっくりと袖をまくる。
「分かったわよ」
「おお」
「ただし、私の言う通りに動いてもらうわよ」
「ああ、任せろ」
「途中で勝手なことをしないこと」
「分かった」
「それから――」
レティシアは崩れた水路を指差した。
「ここだけじゃないわ。下流側も直すから」
住民たちが顔を見合わせる。
「……分かった」
「じゃあ、始めるわよ」
レティシアは水路の前に立った。
その姿は、どう見ても貴族令嬢には見えない。
けれど。
本人だけは、そんなことを気にしていなかった。
「まず、崩れた石を全部どかして」
「おう!」
「ひびの入っているところも確認するわ」
「分かった!」
「それから――」
次々と指示を出していく。
住民たちは、その声に従って動き始めた。
そしてレティシア自身も、水路の修理へと手を伸ばした。
――追放された令嬢。
――悪役令嬢。
そんな呼び名とは関係のないところで。
彼女の新しい生活が、少しずつ動き始めていた。




