Scene 3 水路を調べる
レティシアは、渋々ながら水路の前にしゃがみ込んだ。
「……まったく。どうして私がこんなことを」
ぶつぶつ文句を言いながらも、視線だけは真剣だった。
崩れた石。
そこから漏れ出している水。
周囲の土の湿り具合。
レティシアは一つずつ確認していく。
「…………」
さっきまでの不満そうな表情が、少しずつ変わっていった。
「……なるほど」
「分かりましたか?」
横からニーナが尋ねる。
「ええ」
レティシアは立ち上がると、水路の先へ視線を向けた。
そして、少し歩く。
「ここだけ直しても駄目ね」
「え?」
住民の男が目を丸くする。
レティシアは水路の側面を指差した。
「見て」
「……?」
「下流側も少しずつ崩れてる」
よく見ると、確かに石と石の間に細かな隙間ができている。
目立つほどではない。
今すぐ水路が壊れるようにも見えない。
けれど――。
「ここの石が崩れたせいで、水の流れが変わってるわ」
レティシアは淡々と説明する。
「その水が下流側に余計な負荷をかけてる。今は小さなひびだけど……」
指先でひびの入った部分を示す。
「放っておけば、もっと大きく壊れるわよ」
「…………」
住民たちが顔を見合わせた。
「そこまで分かるのか?」
「俺には全然見えなかったぞ」
「昨日から水が減ってるとは思ってたが……」
レティシアは眉をひそめる。
「だから言ったでしょう」
「何を?」
「ここだけ直しても駄目だって」
「……ああ」
男が頷く。
レティシアは水路全体を見渡した。
「一番壊れているところだけ直すなんて、そんな雑な修理で済ませたら、また同じことになるでしょう」
「…………」
「直すなら、原因から直さないと意味がないわ」
住民たちは、黙って水路を見つめる。
レティシアはそんな彼らを見て、首を傾げた。
「何よ」
「いや……」
男が少し困ったように笑った。
「本当に、よく見てるなと思ってな」
「当然でしょう」
レティシアは即答した。
「壊れたものを直すなら、どこが悪いのか調べるくらい普通よ」
「…………」
ニーナが小さく微笑む。
「お嬢様は、こういうことになると昔から細かいですから」
「細かいんじゃないわ。ちゃんと見ているだけよ」
「はいはい」
「何よ、その言い方」
いつものように言い返しながら。
レティシアはもう一度、水路へ目を向けた。
――壊れているのは、一か所だけではない。
ならば。
直す場所も、一か所ではない。
それだけのことだった。




