第6話「口の悪い令嬢 Scene 1 相談された問題
レティシアは、先ほど声をかけてきた住民の男の後を歩いていた。
「それで、相談って何なの?」
「まあ、見てもらったほうが早い」
「……?」
街の中心から少し離れるにつれ、建物はまばらになっていく。
やがて二人は、街外れの草地へと出た。
その先には、古びた石造りの水路が伸びていた。
長い年月を使い続けてきたのだろう。
石はところどころ黒ずみ、苔が張りついている。
そして――
一部の石が崩れ、水が横へ漏れ出していた。
「これだ」
男が水路を指差す。
「昨日から水の流れが悪くてな」
レティシアは黙って水路を眺めた。
「このままだと畑に水が届かない」
「……なるほど」
しゃがみ込み、水の流れを見る。
確かに、崩れた部分からかなりの量が漏れている。
けれど。
レティシアは、ほんの数秒眺めただけで立ち上がった。
「……これ?」
「ああ」
「こんなの誰でも直せるでしょう」
男は少しも気にした様子もなく頷いた。
「じゃあ頼む」
「…………」
レティシアの動きが止まった。
男は、当然のような顔で彼女を見ている。
「…………」
「…………」
沈黙。
レティシアはゆっくりと自分を指差した。
「……私?」
「そうだ」
「私に?」
「うん」
「…………」
レティシアは、隣にいるニーナを見た。
ニーナは何も言わず、にこやかに微笑んでいる。
「…………まさか」
レティシアの顔が、わずかに引きつった。
「本当に私がやるの?」
「頼んだ」
「いや、そうじゃなくて――」
レティシアは水路と男を交互に見た。
「私、昨日ここに来たばかりの令嬢なのだけど?」
「知ってる」
「……」
どうやら、この男には関係ないらしい。
レティシアは額に手を当てた。
――どうしてこうなったのかしら。
昨日までは王都で、悪役令嬢だの何だのと言われていた。
それが今日は。
「水路を直してくれ」
である。
「……グランフェルって、本当に変なところね」
「そうか?」
男は首を傾げた。
「困ってるんだから、直せる奴に頼む。それだけだろ」
「…………」
レティシアはもう一度、水路を見る。
そして、小さくため息をついた。
「……分かったわよ」
こうして。
追放された悪役令嬢の、グランフェルでの最初の仕事が始まった。




