Scene 11 章の本当の始まり
「それで、相談って何なの?」
レティシアは、先ほど声をかけてきた住民の後を歩いていた。
「まあ、見てもらったほうが早い」
「そう」
レティシアは頷き、そのまま街の中を進んでいく。
少し前まで。
自分はここにとって、ただの「追放された令嬢」だった。
王都から追い出されてきた、訳ありの貴族令嬢。
それが、ここでの自分の立場なのだと思っていた。
けれど。
誰も、そんな扱いをしなかった。
昨日、街に着いたときもそうだった。
悪役令嬢だと知っていても、食事を出された。
今朝もそうだ。
追放された令嬢だと知っていても、普通に声をかけられた。
そして今は。
「困っていることがあるから、ちょっと来てくれ」
それだけだった。
特別扱いされるわけでもない。
腫れ物のように扱われるわけでもない。
かといって、過剰に持ち上げられるわけでもない。
ただ――
一人の人間として、そこにいる。
「……」
レティシアは、ふと足を止めた。
(王都では……)
思い出す。
王都では、いつも最初に判断された。
どんな家の娘なのか。
どんな性格なのか。
どんな評判なのか。
善人なのか。
悪人なのか。
そして――
「どんな人間なのか」。
それが決まってしまえば、その後の行動まで、その評価に当てはめられた。
けれど。
ここでは違う。
「何ができるのか」
それを見ようとしている。
追放された令嬢だからどうこうではない。
悪役令嬢だからどうこうでもない。
困っていることがある。
だから相談する。
ただ、それだけ。
「……面白いわね」
レティシアが呟く。
「何がです?」
ニーナが隣から尋ねる。
「この街」
レティシアは前を歩く住民を見る。
「私が何者なのかなんて、誰も気にしていない」
そして。
「何ができるのか、それだけを見ようとしている」
ニーナは微笑んだ。
「お嬢様には、合っているのかもしれませんね」
「……そうかしら?」
レティシアは少し考える。
それから、小さく笑った。
「だったら、せっかくだもの」
歩みを再開する。
「私に何ができるのか、見せてもらおうじゃない」
その日。
レティシアはまだ知らなかった。
この小さな一歩が。
「追放された令嬢」としての人生ではなく――
「グランフェルのレティシア」としての人生の始まりになることを。
そして。
王都で「悪い部分」と呼ばれた彼女の性格が。
この辺境では、誰かを救う力になることを。




