Scene 10 翌朝への伏線
翌朝。
レティシアはニーナとともに、街を歩いていた。
朝のグランフェルは、昨日とはまた違った活気に包まれている。
店を開ける者。
荷物を運ぶ者。
市場へ向かう者。
それぞれが忙しそうに動いていた。
「……朝から騒がしいわね」
「活気があってよいことでは?」
「まあ、それはそうね」
レティシアが周囲を眺めながら歩いていると。
「おーい、レティシア様!」
突然、後ろから声をかけられた。
「……?」
レティシアが振り返る。
そこには、昨日の住民の一人が立っていた。
レティシアは自分を指差す。
「……私?」
「そうだよ」
男は笑いながら頷いた。
「昨日の令嬢だろ?」
「ええ」
「ちょうどいい。ちょっと相談がある」
「……相談?」
その言葉を聞いた瞬間。
レティシアの目が、ほんの少し輝いた。
「相談……」
「そうだ。ちょっと困ってることがあってな」
「…………」
(困っていること?)
レティシアは、わずかに身を乗り出した。
昨日、ハロルドに言われた言葉が頭をよぎる。
――困っていることがあるなら、放っておくな。
「それは、どんなこと?」
思わず尋ねる。
男は少し困ったように頭を掻いた。
「それがな……」
レティシアは真剣な顔で耳を傾ける。
その表情を見て、ニーナは小さく息を吐いた。
(お嬢様……)
どうやら。
この人は、何か問題があると知った瞬間。
放っておけない性分らしい。
そしてレティシア自身は、まだ気づいていない。
これが――
彼女の辺境生活、最初の仕事になることを。




