Scene 9 「追放された令嬢」ではなく
夜。
与えられた部屋には、静かな時間が流れていた。
王都の屋敷に比べれば、決して豪華ではない。
けれど、暖炉は暖かく、ベッドも十分に整えられている。
レティシアは窓辺の椅子に座りながら、今日一日のことを思い返していた。
「……変なところね」
「はい」
ニーナが紅茶を淹れながら頷く。
「誰も私のことを『悪役令嬢』だなんて気にしていない」
「そうですね」
「追放されたことも知っているのに」
「はい」
「王都で問題を起こしたことも知っている」
「はい」
それなのに。
誰も自分を責めなかった。
嫌な顔もしなかった。
それどころか、到着したばかりの自分に食事まで用意してくれた。
レティシアはしばらく黙った。
「王都では……」
ぽつりと呟く。
「私は何をしても『悪い部分』だった」
ニーナは何も言わず、レティシアの言葉を待つ。
「怒れば、怖いと言われた」
「……」
「言い返せば、高慢だと言われた」
レティシアは、自分の手を見る。
「嫌なものを嫌だと言えば、わがままだと言われた」
そして。
「でも、ここでは……」
今日出会った住民たちの顔を思い出す。
追放された令嬢だと知っているのに、真っ先に言われたのは――
『腹減ってるか?』
だった。
「……腹が減っているかどうかのほうが重要なのね」
「お嬢様らしい解釈ですね」
ニーナが小さく笑った。
レティシアは眉を寄せる。
「何よ」
「いえ」
「何か言いたそうね」
「何も」
「絶対に何か思っているでしょう」
「……少しだけ」
「ほら!」
レティシアが頬を膨らませる。
ニーナは、くすりと笑った。
その様子を見て、レティシアも小さく息を吐く。
「……まあ、いいわ」
窓の外を見る。
王都とは違う、暗い夜空。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
むしろ――
少しだけ、肩の力が抜けるような気がした。




