Scene 8 「何をすればいいの?」
食事を終えたレティシアは、ふとハロルドを見る。
ここまで来た。
王都から追放され、北西の辺境までやってきた。
では――
これから、自分は何をすればいいのだろう。
「では」
レティシアは姿勢を正した。
「私はここで何をすれば?」
ハロルドは少しだけ考えた。
そして。
「好きにしろ」
「……はい?」
あまりにも予想外の答えだった。
「辺境送りになったんだろう?」
「ええ」
「だったら、ここで暮らせばいい」
「…………」
「何かやりたいならやれ」
レティシアは、ぽかんとハロルドを見つめた。
「……随分と適当ね」
「そうか?」
「そうでしょう」
王都なら、何をするにも決まりがあった。
誰に許可を取るのか。
どこまでが自分の仕事なのか。
どう振る舞うべきなのか。
何をすれば評価されるのか。
そんなものが、いつも周囲にあった。
なのに。
「好きにしろ」
たったそれだけ。
「……本当に、それだけ?」
「そうだ」
ハロルドは平然としている。
「辺境なんてそんなものだ」
「そんなものでいいの?」
「そんなものでいい」
あまりに堂々と言われてしまい、レティシアは反論する気も失せた。
「……変な場所」
「さっきからそればかりだな」
「だって変なんだもの」
ハロルドは豪快に笑った。
そして。
ふと、真面目な顔になる。
「ただし」
「?」
「困っていることがあるなら、放っておくな」
「…………」
その言葉に。
レティシアは、わずかに目を見開いた。
困っていることがあるなら。
放っておくな。
たった、それだけの言葉。
なのに――
なぜか、胸に引っかかった。
(……困っていることがあるなら)
頭の中で、その言葉を繰り返す。
王都では。
問題が起きれば、誰が責任を取るのか。
誰に相談するのか。
どうすれば問題にならないのか。
そんなことばかりを考えていた。
けれど、ここでは違う。
困っているなら。
放っておくな。
それだけ。
「……なるほど」
レティシアは小さく呟いた。
ハロルドが首を傾げる。
「何がだ?」
「いえ」
レティシアは、少しだけ口元を上げた。
「……なんでもないわ」
けれど。
その目は、先ほどまでとは少し違っていた。
「困っていることがあるなら、放っておくな……ね」
その言葉が。
これからの彼女にとって、思いがけないほど馴染むものになることを。
このときのレティシアは、まだ知らなかった。




