Scene 7 グランフェル辺境伯との対面
「――それで、レティシア嬢はどこにいる?」
不意に、後ろから低い声が響いた。
住民たちが一斉に振り返る。
「おう、来たか」
「辺境伯様だ」
「…………」
レティシアも振り返った。
そこにいたのは、大柄な老人だった。
白髪交じりの髪。
日に焼けた顔。
長年の軍務を思わせる、鍛えられた体つき。
年齢こそ重ねているものの、その立ち姿には妙な迫力があった。
「グランフェル辺境伯、ハロルド・グランフェルだ」
そう名乗る必要もないのかもしれない。
周囲の反応を見れば、誰なのかは明らかだった。
レティシアはすぐに立ち上がり、ドレスの裾を整える。
そして、貴族令嬢らしく丁寧に礼をした。
「レティシア・ヴァレンフォールです」
「知っておる」
「……そうですか」
あまりにも即答だった。
レティシアが顔を上げる。
ハロルドは、じっと彼女を見ていた。
まるで噂と本人を見比べるように。
「王都では、ずいぶん騒ぎになったようだな」
「ええ」
レティシアは少しだけ身構えた。
またか。
王都で何度も聞いた言葉。
追放。
断罪。
悪役令嬢。
問題人格。
そんな言葉が続くのかと思った。
しかし。
「まあ」
ハロルドは、あっさりと言った。
「ここでは、そんなことはどうでもいい」
「……え?」
レティシアは目を瞬いた。
ハロルドは周囲を見渡し、それから目の前の料理へ視線を落とした。
「ここで暮らすなら、まず飯を食え」
「…………」
レティシアは、思わず眉を寄せた。
「……またそれ?」
さっきから、何なのだろう。
住民も。
この老人も。
どうして皆、食事のことばかりなのか。
するとハロルドは、当然のことを言うように答えた。
「腹が減っていては何もできん」
「…………」
レティシアは黙った。
ハロルドはそれ以上、王都で何があったのかを尋ねようとはしなかった。
悪役令嬢なのか。
本当に罪を犯したのか。
なぜ追放されたのか。
そんなことよりも。
まず食べろ。
そして、生きろ。
その上で何かをするなら、自分でやれ。
それが、この老人の考え方なのだろう。
「……分かりました」
レティシアは小さく息を吐いた。
そして、再びスープへ手を伸ばす。
「うむ」
ハロルドは満足そうに頷いた。
「それでいい」
(……本当に変な場所ね)
レティシアはそう思いながら、スープを口に運んだ。
けれど。
その表情には、ほんの少しだけ。
先ほどまでにはなかった安心感が浮かんでいた。




