Scene 6 辺境の価値観
食事を続けながら、レティシアは住民たちの話に耳を傾けていた。
どうやら、この街では王都とは少し違った考え方があるらしい。
「ここじゃな」
一人の男がパンをちぎりながら言った。
「偉そうなだけの奴は嫌われる」
「へえ……」
「身分が高いとか、偉い家の出だとか。そんなのは最初だけだ」
別の男が続ける。
「実際に何をするかのほうが大事だ」
「何をするか?」
レティシアが聞き返す。
「ああ」
男は頷いた。
「仕事のできる奴は歓迎する」
「仕事……」
レティシアは、その言葉に少しだけ反応した。
王都では、家柄や評判が何よりも重かった。
誰の娘なのか。
誰と婚約しているのか。
どんな噂が流れているのか。
そして――
「どんな人間だと思われているか」。
それによって、人の価値が決められていく。
けれど。
ここでは違うらしい。
「……仕事ができれば、それでいいの?」
思わず尋ねる。
男は少し考えた。
「少なくとも」
そして、真顔で答えた。
「飯を食わせる理由にはなるな」
「…………」
レティシアは、思わず眉を寄せた。
「基準が雑すぎない?」
「でも分かりやすいだろ」
「分かりやすいけど……」
あまりにも単純すぎる。
レティシアが呆れていると、隣でニーナが小さく頷いた。
「確かに……」
「ニーナまで納得しないでちょうだい」
「ですが、理にかなっている気はします」
「そう?」
「はい。仕事をしてくれる人なら、また頼めますから」
「……なるほど」
レティシアは少し考えた。
仕事ができる。
約束を守る。
困ったときに頼れる。
そういう人間なら、歓迎される。
逆に――
どれだけ身分が高くても。
どれだけ立派な肩書きを持っていても。
何もしない人間は、それほど評価されない。
「……王都とは、ずいぶん違うわね」
ぽつりと呟く。
「そうか?」
「ええ」
レティシアは周囲を見渡した。
ここでは、自分が何と呼ばれているかなど、ほとんど気にされていない。
追放された令嬢。
悪役令嬢。
問題のある人格。
そんな言葉を並べても。
目の前の人たちにとっては、
「だから何?」
なのだろう。
それよりも。
腹が減っているなら飯を食わせる。
仕事ができるなら頼りにする。
困っているなら助けてもらう。
実に単純だ。
「……変な場所ね」
「さっきからそればっかりですね、お嬢様」
「だって、本当に変なんだもの」
そう言いながら。
レティシアは、少しだけ笑った。
(王都とは、ずいぶん違うわね)
そしてまだ、このときの彼女は知らなかった。
この場所では――
「何者なのか」よりも、
「何ができるのか」のほうが、ずっと大切にされることを。




