Scene 5 レティシア、戸惑う
レティシアは、目の前の食事をじっと見つめていた。
温かいスープ。
パン。
保存肉。
どれも、王都で用意されるような豪華な料理ではない。
けれど。
今の自分には、それが妙にありがたく感じられた。
それでも――
「……私、追放されたのよ?」
ぽつりと告げる。
「知ってる」
あっさり返された。
「…………」
レティシアは顔を上げる。
「王都で問題を起こしたのよ?」
「それも聞いてる」
「…………」
まだだ。
まだ伝わっていない。
レティシアは少しだけ身を乗り出した。
「……悪役令嬢よ?」
男は黙った。
「…………」
「…………」
しばらく考えるようにレティシアを見つめる。
そして。
「だから?」
「…………」
完全に言葉を失った。
「だから、って……」
レティシアの眉がぴくりと動く。
その隣では、ニーナが肩を震わせていた。
「……ふっ」
「ニーナ」
「申し訳ありません」
「笑っているでしょう?」
「笑っておりません」
「笑ってるじゃない!」
ニーナは慌てて顔を背ける。
レティシアはむっとした。
「何よ、その反応は」
「いえ……お嬢様が、王都で使われていた肩書きを一生懸命説明しているのが……」
「何よ」
「少し面白くて」
「面白くないわよ!」
レティシアが抗議すると、男は不思議そうに首を傾げた。
「悪役だろうが何だろうが、飯は食うだろ」
「…………」
レティシアは固まった。
何も言えない。
いや。
言いたいことは山ほどある。
自分がどれだけ王都で問題視されていたか。
どれだけ人々から嫌われていたか。
どれだけ「悪い部分」として扱われたか。
全部説明したい。
けれど。
目の前の男の顔を見る。
本当に、どうでもよさそうだった。
悪役令嬢だから何だ。
追放されたから何だ。
王都で問題を起こしたから何だ。
腹が減っているなら――
飯を食えばいい。
「…………」
レティシアは、とうとう何も言えなくなった。
そんな彼女を見て、男は満足そうに頷く。
「ほら。冷めるぞ」
「……分かったわよ」
レティシアは小さく息を吐く。
そして、もう一度スープに口をつけた。
温かい。
その温かさが、妙に胸に残った。
(……変な人たち)
王都では、誰もが「私は何者なのか」を見ていた。
ここでは――
「腹が減っているかどうか」のほうが大事らしい。
(……本当に、変なところね)
そう思いながら。
レティシアは、もう一口だけスープを飲んだ。




