↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/176

Scene 4 いきなり食事

「……え?」


レティシアが呆然としている間にも、男は振り返った。


「おい!」


少し離れた場所にいる別の住民へ声をかける。


「飯、余ってるだろ!」


「ああ、あるぞ!」


「じゃあ持ってこい!」


「分かった!」


「…………」


話が早すぎる。


レティシアが何か言う暇もない。


住民の一人が走っていき、別の男が大きな鍋を抱えてくる。


さらに、籠いっぱいのパン。


保存肉。


野菜まで添えられている。


「ほら」


「熱いうちに食え」


「パンもあるぞ」


「肉は少し硬いが、腹にはたまる」


次々と料理が並べられていく。


「…………」


レティシアは、その光景をただ眺めていた。


隣にいるニーナも同じだった。


「……お嬢様」


「何よ」


「歓迎されている……のでしょうか?」


「知らないわよ」


即答だった。


そもそも、歓迎される理由が分からない。


自分は王都から追放された身だ。


しかも、ただの追放ではない。


「悪役令嬢」と呼ばれ、「問題のある人格」とまで判断された。


王都では、それだけで人々の態度が変わった。


なのに。


「旅してきたんだろ?」


さっきの男が言う。


「腹減ってるだろ」


「……」


「遠慮するな」


レティシアは目の前の料理を見る。


湯気の立つスープ。


焼きたてとはいかないまでも、十分に香ばしいパン。


保存用に塩漬けされた肉。


どれも豪華ではない。


けれど、長旅をしてきた人間が食べるには、十分すぎるほどだった。


「…………どうして?」


ぽつりと、レティシアが呟いた。


「ん?」


「どうして、私にこんなことをするの?」


男は不思議そうな顔をした。


「どうしてって……」


そして、あっさり答える。


「長旅してきたんだろ?」


「……ええ」


「だったら腹減ってるだろ」


「…………」


レティシアは言葉を失った。


それだけ。


たった、それだけなのだ。


王都なら。


まず聞かれる。


何をしたのか。


どんな罪を犯したのか。


本当に悪役令嬢なのか。


誰が味方なのか。


どの派閥に属しているのか。


そして――


「この人間は、善人なのか悪人なのか」


そんなことを判断される。


けれど、ここでは。


そんなものより先に、


「腹が減っているだろう」


だった。


「……変なところね」


思わず、そう呟く。


男は笑った。


「辺境だからな」


「それ、理由になっているの?」


「なるだろ」


「ならないわよ」


レティシアは呆れながらも、目の前のスープを見る。


湯気が、ゆっくりと立ち上っている。


その匂いを嗅いだ瞬間。


ぐう。


「…………」


「…………」


「…………」


周囲の視線が、一斉にレティシアへ集まった。


「…………今のは違うわ」


「何が?」


「私じゃないわ」


「いや、お嬢様です」


ニーナが即答した。


「ニーナ!」


「事実ですので」


住民たちから笑い声が上がる。


レティシアは顔を赤くしながら、ため息をついた。


「……いただくわ」


「おう!」


「そうしろそうしろ!」


スープの入った器を手に取る。


一口。


温かかった。


「…………」


思っていたより、ずっと美味しい。


レティシアは何も言わず、もう一口飲んだ。


その様子を見て、住民たちは満足そうに頷いている。


まるで――


追放された令嬢を迎え入れたというより。


長旅をしてきた一人の人間に、食事を出しただけ。


そんな、ごく当たり前のことをしたように。


レティシアは静かにスープを見つめた。


(王都では……)


(私は何者なのかを、ずっと問われていた)


(悪役なのか)


(善人なのか)


(必要な人間なのか)


けれど、この場所では。


そんなことは、まだ誰も気にしていない。


ただ、


「長旅してきたなら、腹が減っているだろう」


それだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。