第5話「辺境到着」 Scene 1 北西辺境グランフェル
馬車は、北へ向かって走っていた。
王都を出てから、数日。
最初の頃は整えられていた街道も、いつの間にか荒れている。
石畳は途切れ。
車輪が大きく揺れるたび、馬車の中まで振動が伝わってきた。
「……揺れるわね」
レティシアが窓枠に手を添える。
「そうですね」
向かいに座るニーナも、揺れに合わせて身体を揺らしていた。
窓の外へ目を向ける。
王都では見慣れなかった景色が、次々と流れていく。
建物は少なくなった。
人通りも減った。
代わりに、広い森や荒れた草原が増えている。
さらに遠く。
白い雪を被った山々が、空の向こうに連なっていた。
「……」
レティシアは、しばらくその景色を眺めていた。
「……ここがグランフェル?」
「はい」
ニーナが頷く。
「北西辺境グランフェルです」
レティシアは、もう一度窓の外を見る。
王都を出る前。
何度も聞かされた話が頭に浮かんだ。
――魔物が多い。
――冬は厳しい。
――道も悪く、生活は不便。
――治安もあまり良くない。
そして。
――辺境の人間は粗野で危険。
「……」
レティシアは少し考えた。
「随分と物騒なところね」
「王都では、そう聞いていましたね」
「ええ」
もっと荒れ果てた場所を想像していた。
人もほとんど住んでいない。
魔物がそこら中を歩き回っている。
そんな場所なのだと思っていた。
けれど。
実際に見てみれば。
確かに王都より不便そうではある。
けれど、人が暮らしている。
道を歩く人もいる。
遠くには小さな町らしきものも見える。
「……」
レティシアは、少しだけ身を乗り出した。
「ねえ、あれは何?」
「あちらですか?」
「ええ。あの山の麓にある建物」
「分かりません。後で聞いてみましょう」
「そう」
レティシアは再び窓の外へ視線を戻した。
怖い、という気持ちは。
不思議なくらい、なかった。
それよりも。
(……どんなところなのかしら)
知らない土地。
知らない人々。
王都とはまったく違う暮らし。
追放された身ではある。
けれど。
「……ちょっと楽しみかもしれないわ」
「何がですか?」
ニーナが尋ねる。
レティシアは、少しだけ笑った。
「さあ?」
そう答えながら。
彼女は、初めて見る辺境の景色を眺め続けていた。




