Scene 10 「王都なんて願い下げよ」
馬車の荷台に、次々と荷物が積み込まれていく。
衣服。
本。
身の回りの品。
どれも、王都を離れるために必要なものだった。
「……これで全部です」
ニーナが確認する。
「そう」
悪役レティシアは、馬車の前に立った。
そして。
一度だけ、振り返る。
目の前に広がる王都。
生まれ育った場所。
家族と過ごした場所。
そして――もう一人の自分が残る場所。
令嬢レティシア。
同じ顔。
同じ声。
同じ記憶。
同じ家族。
なのに。
もう、自分とは違う存在として扱われている。
(……変な話ね)
つい昨日まで。
自分たちは一人だった。
それが今では。
片方が「本物」で。
もう片方が「悪い部分」。
「……」
レティシアは、少しだけ目を伏せた。
寂しい。
そう思った。
けれど。
「……まあ」
小さく息を吐く。
いつまでも、ここに立っているわけにはいかない。
レティシアは顔を上げた。
そして。
「……王都なんて」
一拍置いて。
「こっちから願い下げよ」
ニーナが隣で頷く。
「そうですね」
「辺境のほうが、よっぽど性に合ってるわ」
「……まだ行ったこともありませんけど」
「知らないわよ」
レティシアは堂々と言い切った。
「王都よりは面白そうじゃない」
ニーナが小さく笑う。
「では、参りましょうか」
「ええ」
レティシアが馬車へ乗り込む。
扉が閉まる。
やがて。
馬車がゆっくりと動き始めた。
遠ざかっていく王都を。
レティシアは、もう振り返らなかった。




