Scene 8 正式決定
広間に、重い沈黙が落ちていた。
やがて法務官が立ち上がる。
手元の書類を開き、淡々と読み上げた。
「それでは、今回の件について正式な処分を申し上げます」
誰も口を開かない。
「まず、令嬢レティシア・ヴァレンフォール嬢について」
法務官は、令嬢レティシアを見る。
「現在の人格を、ヴァレンフォール侯爵家の令嬢として認めるものとします」
「……はい」
令嬢レティシアは、小さく頷いた。
続いて。
法務官の視線が、悪役レティシアへ向く。
「そして――」
一拍。
「こちらの人格については」
書類に目を落とす。
「人格分裂の原因となった、問題人格と判断します」
「…………」
悪役レティシアは、黙っていた。
法務官は、そのまま続ける。
「よって、王都における貴族としての権利を認めず」
紙をめくる。
「王都からの退去を命じるものとします」
「…………」
ざわ、と。
広間のあちこちから小さな声が漏れた。
「やはり、そうなったか」
「本来のレティシア様は、あちらなのだろう」
「悪い部分だけが分離したということか」
誰も、悪役レティシアを見ようとしなかった。
まるで。
そこにいるのが、一人の人間ではないかのように。
悪いもの。
不要なもの。
切り離されたもの。
ただ、それだけであるかのように。
悪役レティシアは、俯かなかった。
泣きもしなかった。
怒鳴りもしなかった。
ただ、目の前の光景を見つめていた。
そして、ふと思う。
(……私って)
(本当に、捨てられるものだったのね)
胸の奥が、ほんの少しだけ痛んだ。




