Scene 7 「本物」の意味
「ねえ、アルベルト様」
悪役レティシアが、静かに口を開いた。
「もし私が、“悪い部分”なら」
アルベルトが顔を上げる。
「怒ることも、悪いの?」
「……」
「嫌なことを嫌だと言うことも?」
アルベルトは答えられない。
悪役レティシアは続けた。
「自分が傷つけられそうになったとき、自分を守ることも?」
「それは……」
言葉が詰まる。
「全部、悪いの?」
「…………」
広間が静まり返る。
誰も口を挟まない。
悪役レティシアは、アルベルトの顔をじっと見つめた。
「だって、そうでしょう?」
「私が持っているものが全部“悪い部分”なら」
自分の胸元へ手を添える。
「私は、何を残しておけばよかったの?」
答えは返ってこない。
アルベルトは苦しそうに視線を落とした。
彼にも分からない。
怒ることが悪いとは言い切れない。
反論することも。
嫌なものを拒むことも。
自分を守ることも。
けれど、それらが強すぎれば、人を傷つけることだってある。
では。
どこまでが悪くて。
どこからが必要なのか。
誰にも分からなかった。
悪役レティシアは、ふっと視線を逸らした。
「……分からないのね」
「……ごめん」
アルベルトの声は小さかった。
「僕にも、分からない」
その言葉だけが。
広間に残った。
優しい人格だけを残せば。
人は、本当に完全になるのだろうか。
誰も、その答えを持ってはいなかった。




