Scene 3 「私もレティシアなのだけど?」
「では、確認いたします」
重い沈黙の中、王族側の席にいる法務官が口を開いた。
「今回の問題は、レティシア・ヴァレンフォール嬢が二名存在していることです」
「ええ」
悪役レティシアは腕を組んだ。
「だから、どちらもレティシアでしょう?」
「……」
法務官が言葉を濁す。
その反応だけで、嫌な予感がした。
「しかし、現在の状況を見る限り――」
一人の貴族が、令嬢レティシアへ視線を向ける。
「こちらのレティシア様を、本来の人格とするのが妥当かと」
「……理由は?」
悪役レティシアが尋ねる。
貴族は少し困ったように眉を下げた。
「非常に穏やかで、礼儀正しく、他者への思いやりもある」
「それが?」
「対して、あなたは……」
貴族の視線がこちらへ戻る。
「怒る」
「怒るわね」
「反論する」
「するわね」
「命令する」
「必要ならね」
「皮肉を言う」
「言うわね」
悪役レティシアは、そこで一度頷いた。
「……それで?」
貴族は答えた。
「あなたはレティシア様の悪い部分でしょう」
「……は?」
空気が止まった。
悪役レティシアの表情から、すっと感情が消える。
今、何と言った。
「あなたは、レティシア様の中にあった攻撃的な部分や、他者への不満、怒りなどが分離した存在なのでしょう」
「……」
「つまり、本来のレティシア様ではありません」
別の貴族が、静かに続ける。
「本物のレティシア様は、あちらです」
視線が、令嬢レティシアへ向く。
「……」
令嬢レティシアは困ったように笑っていた。
何かを言おうとしている。
けれど、言葉が出てこない。
悪役レティシアは、二人を交互に見た。
そして。
「……私もレティシアなのだけど?」
ぽつりと呟いた。
誰も答えなかった。
「私も、レティシア・ヴァレンフォールでしょう?」
声が少しだけ震える。
「同じ顔で、同じ声で、同じ記憶があって」
自分の胸元に手を当てる。
「同じ家で育って、同じ人を好きになって、同じ人生を生きてきた」
それなのに。
「……なんで、私だけ偽物なのよ」
令嬢レティシアが顔を上げる。
「違います、私は――」
「……」
悪役レティシアが見る。
令嬢レティシアは口を閉じた。
その沈黙が。
何よりも痛かった。
悪役レティシアは、何も言わなくなった。
いつものように怒鳴ることも。
皮肉を言うことも。
反論することもできなかった。
ただ、そこに立っていた。
まるで。
自分自身からも、居場所を奪われたように。




