Scene 2 二人のレティシア、法的問題
――王城。
重々しい扉の向こう。
広い会議室には、王族、貴族、法務官たちが集まっていた。
その中央にいるのは。
二人のレティシア。
まったく同じ顔。
同じ髪。
同じ声。
そして――同じ記憶。
どちらも、ヴァレンフォール侯爵家の娘。
どちらも、レティシア・ヴァレンフォールとして生きてきた。
だからこそ。
会議は、始まってからずっと進んでいなかった。
「……整理いたします」
法務官が、疲れたように書類をめくる。
「本来、昨日の婚約破棄および王都追放の処分対象は、レティシア・ヴァレンフォール嬢一名です」
悪役レティシアは腕を組んだ。
「ええ」
「ですが――」
法務官が、向かいに座る二人を見る。
「現在は二名存在します」
「だから?」
レティシアは即座に返した。
法務官は言葉に詰まった。
「……はい?」
「だから、何なのよ」
レティシアは不思議そうに眉を寄せる。
「二人いるなら二人いる。それだけでしょう?」
「しかし、法的にはそう簡単にはいきません」
「どうして?」
「貴族としての身分も、家名も、財産相続権も、王家との婚約も――すべて一人の人物を前提として定められています」
「…………」
そこで初めて。
レティシアの表情から、少しだけ余裕が消えた。
法務官は慎重に言葉を続ける。
「したがって……どちらが“レティシア・ヴァレンフォール”なのかを決める必要があります」
「…………」
レティシアは、黙った。
数秒。
そして。
「……は?」
思わず素の声が出た。
法務官は困ったように視線を逸らす。
「お二人とも同じ名前で、同じ記憶をお持ちですから……」
「いや、待ちなさい」
レティシアが身を乗り出す。
「私もレティシアでしょう?」
「その点について、確認が必要なのです」
「何を確認するのよ」
「どちらが本来の人格なのか」
「…………」
空気が止まった。
レティシアは隣を見る。
そこには、もう一人の自分。
令嬢レティシアが座っている。
向こうも困った顔をしていた。
(……何よ、それ)
胸の奥に、嫌なものが落ちた。
まるで。
自分だけが、最初から疑われているような。
そんな感覚。
「……つまり」
レティシアはゆっくりと言った。
「どちらか一人を、“本物”にする必要があるってこと?」
誰も答えない。
その沈黙が。
何よりも嫌な答えだった。




