Scene 11 悪役レティシア、王都を眺める
――夕暮れ。
侯爵家の窓から、王都の街並みを眺めながら。
悪役レティシアは、ニーナから聞いた噂を思い返していた。
「みんな、あいつが好きなのね」
「そうみたいですね」
「白百合の令嬢、ね……」
レティシアは窓枠に頬杖をつく。
街の向こうには、いつもと変わらない王都が広がっている。
けれど。
もうすぐ自分は、そこから離れることになる。
「……馬鹿みたい」
ぽつり。
「何がです?」
「何がって……」
レティシアは少しだけ眉を寄せた。
そして。
ほんの一瞬だけ、寂しそうな顔をする。
「私だって、あいつだって、レティシアなのに」
ニーナは何も言わなかった。
レティシア自身も、それ以上は続けない。
しばらく黙って王都を眺めていたが――
やがて。
「……まあ、いいわ」
いつもの調子に戻る。
「王都があいつを好きなら、それでいいじゃない」
窓から離れる。
そして、肩をすくめた。
「私は辺境で好きに生きる」
「辺境で、ですか?」
「ええ」
レティシアは堂々と言い切った。
「王都の連中に好かれる必要なんてないもの」
少し考えて。
「それに――」
口元がわずかに上がる。
「辺境なら、私みたいなのでも役に立つでしょう」
ニーナは静かに微笑んだ。
「そうですね」
「何よ」
「いえ」
「……その顔、何か言いたそうね」
「何も」
レティシアは鼻を鳴らす。
「ならいいわ」
そして再び窓の外を見る。
遠くに広がる王都。
そこでは今。
もう一人の自分が、多くの人に愛されている。
ならば――
自分は、自分の居場所を探せばいい。
王都が令嬢レティシアを歓迎するのなら。
いつか辺境は。
悪役レティシアを歓迎することになる。
――そんな未来を、まだ誰も知らなかった。




