Scene 10 アルベルトの「優しさ」
――そして。
令嬢レティシアのもとには、少しずつ仕事が増えていった。
その中には、以前の彼女なら引き受けなかったものもある。
「レティシア。この件なんだけど……」
アルベルトが書類を差し出す。
レティシアは目を通した。
内容を確認して。
そして、以前ならきっとこう言っていただろう。
『それはアルベルト様ご自身がお決めになるべきでは?』
王太子として。
自分自身の判断で決めなければならないこと。
そういうものは、確かにあった。
けれど。
今のレティシアは、少し微笑んで。
「私にできることでしたら、お引き受けしますわ」
「本当かい?」
アルベルトの顔が明るくなる。
「ありがとう、レティシア」
「どういたしまして」
レティシアも笑う。
アルベルトは安心したように頷くと、そのまま部屋を出ていった。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
「ええ」
扉が閉まる。
――静かになった。
「…………」
レティシアは、しばらく扉を見つめていた。
そして。
ゆっくりと机へ視線を戻す。
そこには。
積み上げられた書類。
一枚。
二枚。
十枚。
……それどころではない。
いつの間にか、机の上は仕事で埋め尽くされていた。
「…………」
レティシアは何も言わない。
ただ、その山を見つめている。
少しだけ。
胸の奥が重い。
けれど。
さっきのアルベルトの笑顔を思い出す。
ありがとう、と言ってくれた。
頼りにしてくれた。
必要としてくれた。
だから。
レティシアは、ゆっくりと笑った。
「……頑張らなくては」
そう呟いて。
一枚目の書類を手に取る。
誰かに頼られること。
誰かに喜んでもらうこと。
誰かに必要とされること。
それは、とても嬉しい。
だからこそ。
そのために、自分が少し無理をしていることには――
まだ、気づかなかった。




