Scene 6 一方、侯爵家では
――同じ頃。
王都のヴァレンフォール侯爵家。
その一室では、悪役レティシアが机の上に広げられた書類を睨みつけていた。
王城から届いた、追放に関する書類。
処分内容。
移送先。
身分についての扱い。
そして、正式な決定に至るまでの手続き。
一枚一枚に目を通したレティシアは、やがて顔を上げた。
「……つまり、私は辺境送りになる可能性が高いってこと?」
向かいに座る侯爵が答える。
「まだ決定ではない」
「ならいいわ」
レティシアは、書類をぱさりと机の上へ放り出した。
「王都に未練なんてないもの」
その言葉に迷いはない。
少なくとも、表面上は。
侯爵は何か言おうとして――やめた。
「…………」
「何よ」
「いや」
「言いたいことがあるなら、さっさと言いなさい」
侯爵は少しだけ言いにくそうな顔をした。
そして。
「お前がいなくなった途端、王都ではもう一人のレティシアが大変な人気らしい」
「…………」
レティシアの眉が、ぴくりと動いた。
「へえ」
声は平坦だった。
平坦すぎた。
侯爵は続ける。
「白百合の令嬢、ですって」
「…………」
「優しくて、穏やかで、誰からも好かれるそうだ」
「…………へえ」
さっきより、声が低い。
机の上に置かれたレティシアの指が、ほんの少しだけ動いた。
侯爵は娘の顔を見る。
「……怒らないのか?」
「別に」
即答だった。
あまりにも即答だった。
そしてレティシアは、ふん、と鼻を鳴らす。
「私と違って、ずいぶん人気者で結構なことじゃない」
「…………」
「優しくて、穏やかで、誰からも好かれるんでしょう?」
「そうらしいな」
「それはそれは。よかったじゃない」
にこり。
笑っている。
笑っているのだが――
目がまったく笑っていない。
侯爵は黙った。
(……怒っているな)
長年娘を見てきた父親には、それがよく分かった。
一方のレティシアは、何食わぬ顔で書類を拾い上げる。
「別に、私には関係ないわ」
そう言いながら。
書類を持つ手には、少しだけ力が入っていた。
「王都があの子を気に入ったなら、それでいいじゃない」
そして、小さく呟く。
「……私と違って」
その言葉だけが。
妙に、棘を含んでいた。




