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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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Scene 5 「嫌なところ」がなくなった

夜。


王都の屋敷は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。


窓から差し込む月明かりが、部屋の床を淡く照らしている。


令嬢レティシアは、一人で鏡の前に座っていた。


鏡の中には。


見慣れた自分の顔がある。


長い髪。


穏やかな瞳。


整った顔立ち。


けれど。


以前とは、少しだけ違って見えた。


レティシアは鏡の中の自分を見つめながら、ここ数日のことを思い返す。


誰かに何かを言われても。


怒らない。


嫌なことを頼まれても。


責めない。


意見が食い違っても。


争わない。


そうすると。


皆が笑ってくれた。


皆が優しくしてくれた。


そして――誰も自分を嫌わなかった。


「……」


レティシアは、そっと胸に手を当てる。


「……魔女様の言った通りですわ」


小さく呟いた。


あの日。


魔女エルヴィラは言っていた。


自分が嫌だと思っている部分を。


なくしてあげる、と。


「私の嫌なところをなくせば……」


レティシアは鏡に向かって、微笑んだ。


「皆様と仲良くできる」


その言葉を口にすると。


胸の奥が、じんわりと温かくなった。


「本当に……そうだったのですね」


今まで。


どうしても上手くいかなかった。


何かを言えば、怖いと言われる。


正しいと思ったことを言えば、冷たいと言われる。


怒れば、悪役令嬢と呼ばれる。


けれど。


今は違う。


笑えば、笑ってもらえる。


優しくすれば、優しくしてもらえる。


譲れば、喜んでもらえる。


そして。


嫌われない。


「……ふふ」


レティシアは嬉しそうに笑った。


「これで、よかったのですわ」


鏡の中の自分も。


同じように笑っている。


――ただ。


ほんの一瞬だけ。


その表情が。


どこか寂しそうに見えた。


「……?」


レティシアが瞬きをする。


鏡を見る。


そこには。


いつもの自分がいる。


穏やかな笑顔。


何も問題はない。


「……気のせいですわね」


そう呟いて。


レティシアは鏡から目を逸らした。


けれど。


胸に置いた手だけは。


しばらく、そのままだった。

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