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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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Scene 4 王都で人気者になる

それから、さらに数日。


令嬢レティシアは。


王都を歩くだけで、人に声をかけられるようになっていた。


「レティシア様!」


「まあ。ごきげんよう」


振り返れば、知り合いの令嬢。


「先日はありがとうございました!」


「こちらこそ」


「よろしければ、今度のお茶会にぜひ!」


「まあ……」


レティシアが返事をする前に。


別のところから声が飛んでくる。


「レティシア様!」


「はい?」


「今度、ぜひ我が家の茶会にもいらしてください!」


「え、ええ……」


さらに。


「レティシア様!」


「はいっ?」


「こちらの催しにもぜひ!」


「…………」


レティシアは立ち止まった。


右を見る。


左を見る。


前を見る。


――人、人、人。


みんな笑顔だった。


「……まあ」


思わず頬が引きつる。


(どういうことですの……?)


以前の自分が王都を歩いていたときは。


こんなこと、一度もなかった。


むしろ。


道の向こうからレティシアの姿を見つけると、ひそひそと話し始める者までいた。


「あら……レティシア様ですわ」


「まあ……」


「失礼のないようにしましょう」


そんな空気だった。


それが今では。


「レティシア様!」


「こちらへどうぞ!」


「お話しできて嬉しいですわ!」


まるで別人である。


(私……そんなに変わりましたの?)


少し戸惑う。


けれど。


嫌な気持ちはしなかった。


むしろ。


胸の奥が、くすぐったい。


「まあ……ふふ」


自然と笑みがこぼれる。


「皆様、本当にありがとうございます」


その一言だけで。


「まあ!」


「なんてお優しい!」


「やっぱり素敵な方ですわ!」


さらに褒められた。


「…………」


レティシアは少しだけ困った顔をした。


(褒められすぎではありませんこと?)


しかし。


やっぱり嬉しい。


――そして。


王都で広がったのは、人々の評判だけではなかった。


街角の新聞売りが声を張り上げる。


「本日の王都新聞!」


「社交界で話題の令嬢の記事が載っております!」


「『白百合の令嬢』、社交界に再び登場!」


「…………」


レティシアの足が止まった。


「白百合……?」


新聞を買った令嬢たちが、楽しそうに話している。


「これ、レティシア様のことですわよね?」


「ええ!」


「まあ。ぴったりですわ」


「本当にお美しくて、お優しくて……」


レティシアは少し離れたところから、その会話を聞いていた。


「…………」


耳まで赤くなる。


(白百合の令嬢……)


そんな呼び名。


以前の自分なら、きっと恥ずかしがって否定していた。


けれど。


今は。


「……悪くありませんわね」


小さく呟いた。


そして。


少しだけ胸を張る。


「白百合の令嬢……」


その呼び名を。


静かに受け入れた。


「……ふふ」


再び歩き出す。


すると。


「レティシア様!」


「はい?」


「今度のお茶会、本当に来てくださいますわよね?」


「ええ。もちろんですわ」


「まあ、嬉しい!」


また笑顔が返ってくる。


レティシアも笑う。


誰も怒らない。


誰も怖がらない。


誰も彼女を――


「悪役令嬢」と呼ばない。


王都を歩けば、声をかけられる。


微笑めば、微笑み返される。


優しくすれば、優しくされる。


そんな毎日が。


レティシアには、とても新鮮だった。


(……こんな毎日も、あるのですね)


そして。


少しずつ。


彼女は思い始めていた。


(これが……普通なのかもしれませんわ)


「白百合の令嬢」。


その名が。


いつしか王都で、すっかり定着し始めていた。

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