Scene 2 クラリスとの再会
王都の一角にある庭園。
柔らかな陽射しの下、令嬢レティシアは一人で花を眺めていた。
色とりどりの花々が風に揺れている。
その穏やかな光景を眺めながら、レティシアは小さく微笑んでいた。
――そのとき。
「レティシア様……」
背後から、控えめな声が聞こえた。
レティシアが振り返る。
そこに立っていたのは、クラリスだった。
「クラリス様」
レティシアは、にっこりと笑った。
「ごきげんよう」
「……ごきげんよう」
クラリスは少し緊張した様子だった。
以前なら。
二人がこうして顔を合わせれば、もっと重苦しい空気になっていた。
何を言われるのか。
何を言ってしまうのか。
互いに警戒していた。
けれど。
今日のレティシアには、そのような緊張感がない。
クラリスは少し戸惑いながら口を開いた。
「その……」
「はい?」
「レティシア様は……」
そこで言葉を止める。
何かを確かめるように、レティシアの顔を見る。
そして。
「……先日は、大変でしたね」
「ええ」
レティシアは頷いた。
「本当に」
それから。
少しだけ申し訳なさそうに笑う。
「クラリス様」
「はい」
「先日は大変失礼いたしました」
「え?」
クラリスが目を丸くした。
レティシアは、そのまま丁寧に頭を下げる。
「私、あなたに対して少し厳しくしてしまったことがあったのでしょう?」
「い、いえ!」
クラリスは慌てて手を振った。
「そんな! レティシア様が謝られることでは……!」
「そうでしょうか?」
「はい!」
必死に否定するクラリス。
レティシアは顔を上げた。
「でしたら……どうかお気になさらないでください」
「……」
クラリスは、言葉を失った。
あまりにも自然な笑顔だった。
以前のレティシアなら。
「私は間違っていませんわ」
そう言っていたかもしれない。
あるいは。
「それはクラリス様にも問題があったのでは?」
そう返してきたかもしれない。
けれど。
今のレティシアは違う。
自分から頭を下げ。
相手の気持ちを気遣い。
それでいて、何も責めない。
クラリスは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……レティシア様」
「はい?」
「私……」
クラリスは少し俯いた。
「ずっと、怖い方だと思っていました」
「まあ……」
レティシアは驚いたように目を瞬かせる。
「そうでしたの?」
「はい……」
クラリスは申し訳なさそうに続ける。
「いつも厳しい顔をされていて……何を考えているのか分からなくて」
「……」
「だから、私も勝手に怖がってしまって」
「そうだったのですね」
レティシアは微笑んだ。
「でも、もう大丈夫ですわ」
「……え?」
「これから仲良くしていただければ嬉しいですもの」
その一言に。
クラリスの目が大きく開いた。
そして。
「……こんな優しい方だったなんて……」
ぽつりと呟く。
「クラリス様?」
「い、いえ……!」
クラリスは慌てて首を振った。
「なんでもありません!」
それでも。
その顔には、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
「私も……仲良くしていただきたいです」
「本当ですか?」
「はい!」
レティシアも嬉しそうに笑う。
「まあ……よかった」
胸の奥が、ぽかぽかと温かくなる。
(よかった)
(ちゃんと仲良くできる)
以前は。
人と話すたびに、どこかで怯えていた。
何かを言えば嫌われる。
怒れば怖がられる。
自分の気持ちを優先すれば、誰かを傷つける。
そんなことばかり考えていた。
でも。
今は違う。
優しくすれば、優しくしてもらえる。
笑えば、笑い返してもらえる。
そして。
誰も自分を嫌わない。
レティシアは、嬉しそうにクラリスへ微笑んだ。
(これなら――)
(これなら、皆様と仲良くできますわ)
その笑顔を見て。
クラリスもまた、笑った。
二人の間にあったはずの壁は。
今は、もうどこにも見当たらなかった。
――少なくとも。
この瞬間だけは。




