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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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Scene 17 タイトル回収

二人のレティシアによる言い争いが。


ようやく一段落した頃。


部屋の隅で様子を見ていた侍女が、おそるおそる手を上げた。


「あの……」


「何ですの?」


令嬢レティシアが振り向く。


「ひとつ、よろしいでしょうか?」


「ええ」


侍女は二人を見た。


右。


レティシア。


左。


レティシア。


「…………」


どう見ても。


同じ人間が二人いる。


侍女は困ったように眉を下げた。


「……では」


少しだけ間を置いて。


「お二人を、何とお呼びすれば?」


「…………」


沈黙。


令嬢レティシアが。


隣を見る。


悪役レティシアも。


令嬢を見る。


「…………」


「…………」


二人とも。


嫌そうな顔をした。


やがて。


悪役レティシアが、面倒そうに肩をすくめる。


「……好きに呼べば?」


「そういうわけにはいきません!」


侍女が即答した。


「お二人ともレティシア様では、区別がつきません!」


「なら、声で分かるでしょう」


「同じ声です!」


「……そうだったわね」


悪役レティシアが頭を掻く。


令嬢レティシアが腕を組む。


「ですが」


「何?」


「同じ名前では、確かに不便ですわ」


「でしょう?」


侍女が、ほっとしたように頷く。


エレノアが少し考える。


「そうね……」


そして。


二人を見比べる。


「では」


令嬢レティシアを見る。


「王城で『白百合の令嬢』と呼ばれていた方を――」


「そんな呼び方は……」


令嬢レティシアが困った顔をする。


「少し恥ずかしいですわ」


「では『白百合様』では?」


「もっと恥ずかしいです!」


「そうですか?」


「そうです!」


エレノアが微笑む。


「では、どうしましょう」


「…………」


悪役レティシアが口を挟む。


「じゃあ私は?」


「…………」


侍女が固まる。


エレノアも考える。


侯爵も。


そして。


全員の視線が。


悪役レティシアへ集まった。


本人は。


「何よ」


と、不機嫌そうに眉をひそめる。


「私はどう呼ぶの?」


「…………」


侯爵が腕を組む。


しばらく考え。


やがて。


低い声で言った。


「……便宜上、区別する必要はある」


二人が侯爵を見る。


「そこで」


侯爵は、二人を順番に指す。


「こちらを――」


令嬢レティシア。


「令嬢レティシア」


そして。


もう一人を。


「悪役レティシア」


「…………」


部屋が静まり返った。


令嬢レティシアが。


少し困ったような顔をする。


「……悪役、ですの?」


「王城でそう呼ばれていたのだろう」


「ですが……」


令嬢レティシアがちらりと隣を見る。


悪役レティシアは。


「…………」


意外にも。


怒っていなかった。


「……別にいいわ」


「よろしいのですか?」


「区別できるなら、何でもいい」


そう言って。


悪役レティシアは肩をすくめた。


「それに」


少しだけ。


口元を上げる。


「『悪役』って呼ばれるくらいなら、今さらでしょう」


「…………」


令嬢レティシアは。


その横顔を見つめた。


以前なら。


その呼び名を聞くだけで。


胸が痛んだ。


悪役令嬢。


傲慢。


冷たい。


人の気持ちが分からない女。


けれど。


今、目の前にいる彼女は。


その呼び名を。


まるで気にしていない。


むしろ。


「……悪くないわね」


「何がですの?」


「『悪役レティシア』」


「自分から名乗るのですか?」


「別にいいでしょう」


「でも……」


「何よ」


「少し、開き直りすぎでは?」


「そういうところが『悪役』なんじゃない?」


「自分で言わないでください!」


「事実でしょう?」


「そういうところです!」


「だから何よ!」


「また始まった……」


侍女が小さく呟いた。


侯爵は頭を抱え。


エレノアは楽しそうに笑っている。


こうして。


ヴァレンフォール侯爵家では。


二人の娘を区別するため。


暫定的に。


令嬢レティシア。


そして。


悪役レティシア。


そう呼ぶことになった。


それは。


ただの仮の呼び名だった。


――このときは。


まだ。


誰も知らなかった。


やがて。


「悪役レティシア」という名が。


彼女自身を表す、一つの名前になっていくことを。

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