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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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Scene 16 しかし、また喧嘩

「……で?」


悪役レティシアが腕を組んだ。


「じゃあ、私をどうするの?」


「……」


令嬢レティシアが黙る。


先ほどまで。


「いらない存在ではない」


そう言った。


それは本心だった。


しかし。


「どうするの?」


と聞かれると。


急に現実的な問題が目の前に現れた。


「……それは」


「それは?」


悪役レティシアが眉を上げる。


「……考える必要がありますわ」


「でしょうね」


「まず、あなたがなぜ生まれたのか調べる必要があります」


「ええ」


「魔女エルヴィラについても調査して」


「ええ」


「そして呪いを解く方法を――」


「その間」


悪役レティシアが遮った。


「私はどこにいるの?」


「……」


令嬢レティシアが止まる。


「まさか」


悪役レティシアは嫌そうな顔をした。


「『一緒に暮らしましょう』とか言わないでしょうね」


「……」


「言わないわよね?」


「…………」


「言わないわよね?」


「……それが一番安全なのでは?」


「絶対嫌」


即答だった。


「なぜですの!?」


今度は令嬢レティシアが声を上げる。


「なぜって」


悪役レティシアは、心底嫌そうに顔をしかめた。


「お前と一日中一緒なんて疲れるからよ!」


「こちらこそですわ!」


「何よ!」


「何ですの!」


「さっきからいちいち言葉遣いが気になるのよ!」


「あなたの言葉遣いが悪いからでしょう!」


「悪くないわ!」


「悪いですわ!」


「誰が決めたのよ!」


「私です!」


「お前が決めるな!」


「でしたら誰が決めますの!」


「知らないわよ!」


「では黙ってください!」


「はぁ!?」


「何ですの!?」


「喧嘩売ってる?」


「買っていませんわ!」


「売られてるなら買いなさいよ!」


「なぜですの!?」


「知らないわよ!」


「知らないなら言わないでください!」


「……」


「……」


二人が。


ぴたりと止まった。


しばらく。


互いを睨む。


「……今の、何?」


令嬢レティシアが尋ねた。


「知らないわよ」


「あなたが言い始めたのでしょう」


「お前も乗ったでしょう」


「乗っていませんわ」


「乗ってたわよ」


「乗っていません!」


「乗ってた!」


「乗っていません!」


「乗ってた!」


「「――ああ、もう!」」


また声が重なった。


「…………」


部屋の中が静かになる。


使用人たちは。


もう慣れ始めていた。


侯爵は。


完全に慣れていなかった。


「…………」


彼は黙ったまま。


二人の娘を見ている。


そして。


ゆっくりと妻の方を向いた。


「エレノア」


「何ですか?」


「……今の会話を聞いて」


「はい」


「何か解決したか?」


「いいえ」


「そうだな」


「ですが」


エレノアは、にこやかに二人を見る。


「仲良くできそうですね」


「…………」


侯爵は。


もう一度。


二人を見る。


「絶対にお前と同じ部屋では寝ないから!」


「こちらから願い下げですわ!」


「誰が願い下げよ!」


「あなたですわ!」


「言ったでしょうが!」


「覚えていません!」


「記憶は同じはずでしょう!?」


「あなたと同じ記憶なんて信じられませんわ!」


「それは私の台詞よ!」


「…………」


侯爵は。


ゆっくりと。


妻へ顔を戻した。


「どこがだ」


「ふふ」


「笑うところではない」


「でも」


エレノアは、楽しそうに微笑んでいた。


「本当に仲が悪かったら、こんなふうに言い合えないでしょう?」


「……?」


侯爵が眉をひそめる。


「仲が悪いから言い合っているのでは?」


「そうかしら」


「そうだろう」


「あなたは昔から、娘のことをあまり見ていませんでしたもの」


「それは聞き捨てならんな」


「忙しかったから仕方ありませんわ」


「分かっているならなぜ言う」


「事実だからです」


「…………」


侯爵が黙る。


その間にも。


「とにかく!」


令嬢レティシアが悪役レティシアを指差した。


「一緒に暮らすのなら、最低限の規則を決める必要があります!」


「は?」


「朝は侍女が困りますから、一人ずつ起きる!」


「何でよ!」


「二人同時に返事をすると混乱するでしょう!」


「そんなの意識すればいいじゃない!」


「できていますか!?」


「できてるわよ!」


「先ほどから何回同時に話しましたの!」


「それは……」


悪役レティシアが一瞬黙る。


「……偶然よ」


「偶然で何回目ですの!?」


「数えてないわよ!」


「数えてください!」


「嫌よ!」


「なぜ!?」


「だから、お前と一日中一緒にいたら疲れるのよ!」


「こちらこそですわ!」


「「…………」」


また。


同時だった。


二人は。


ゆっくりと。


互いを見た。


「……」


「……」


そして。


同時に顔を背ける。


「ふん」


「ふん」


「…………」


侯爵は。


深々と息を吐いた。


「……エレノア」


「はい」


「私は今」


「はい」


「本当に二人とも同じ娘なのだと」


「ええ」


「別の意味で理解した」


エレノアが微笑む。


「でしょう?」


侯爵は。


再び頭を抱えた。


問題は。


何も解決していない。


魔女の目的も。


呪いの正体も。


なぜ娘が二人に分かれたのかも。


何一つ分からない。


なのに。


目の前では。


「私の部屋には勝手に入らないでください!」


「私の部屋でもあるでしょうが!」


「昨日まで私の部屋でしたわ!」


「昨日までならね!」


「今もです!」


「二人いるんだから半分ずつよ!」


「家具をどう半分にするのです!」


「じゃあ、お前が出ていけば?」


「あなたが出ていってください!」


「お父様!」


「お父様……!」


二人が。


同時に侯爵を見る。


「「どちらが出ていくべきだと思います!?」」


「…………」


侯爵は。


静かに目を閉じた。


「……知らん」


その瞬間。


部屋の中の全員が。


「あ」


という顔をした。


侯爵本人だけが気づいていなかった。


「お父様」


令嬢レティシアが静かに言う。


「何だ」


「昨日までの私を断罪した王城より」


「……」


「こちらのほうが大変そうですわね」


「……そうかもしれんな」


悪役レティシアが鼻で笑う。


「何を他人事みたいに言ってるのよ」


「あなたが原因の半分でしょう!」


「お前も半分でしょうが!」


「「……!」」


二人が再び睨み合う。


侯爵は。


もう一度。


深く。


深く。


ため息をついた。


――魔女を探す前に。


まず、この二人をどうにかしなければならない。


そんな予感だけが。


侯爵家の全員の胸に。


静かに広がっていた。

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