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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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Scene 10 侯爵家、突入

「お嬢様が二人いらっしゃるーーーっ!!」


侍女の悲鳴が屋敷中に響き渡った。


その直後。


廊下から、猛烈な勢いで足音が近づいてくる。


「何事だ!」


「旦那様、お待ちください!」


「お嬢様のお部屋です!」


「護衛を!」


「人を集めろ!」


「いったい何が起きているんだ!?」


ドタドタドタドタッ!


まるで戦場にでも向かうかのような騒ぎだった。


そして――。


バンッ!


扉が勢いよく開かれた。


「レティシア!」


真っ先に飛び込んできたのは、ヴァレンフォール侯爵だった。


その後ろには妻のエレノア。


さらに侍女たち。


護衛たち。


そして。


屋敷中の使用人たちまで。


何十人もの人間が、狭い部屋へ一斉になだれ込んでくる。


「いったい何が――」


侯爵は、そこで言葉を失った。


「…………」


部屋の中。


ベッドの上。


そこには――。


二人の少女がいた。


長い銀髪。


同じ瞳。


同じ顔。


同じ寝間着。


そして。


同じ困惑した表情。


「…………」


侯爵は動かなかった。


隣にいたエレノアも。


「…………」


動かなかった。


侍女たちも。


「…………」


護衛たちも。


「…………」


使用人たちも。


誰一人として。


動かなかった。


部屋の中に、妙な静寂が落ちる。


一秒。


二秒。


三秒。


やがて。


侯爵がゆっくりと額を押さえた。


「……昨日、何かあったのか?」


その声には。


娘を心配する父親としての感情と。


何か重大な問題を見落としているのではないかという恐怖と。


単純に理解できない現実への困惑が。


全部混ざっていた。


侍女が震えながら答える。


「お、お嬢様が……」


侯爵が顔を上げる。


「うむ」


「……二人に……」


「…………」


侯爵は、もう一度二人を見る。


右。


レティシア。


左。


レティシア。


「…………」


視線を右へ。


視線を左へ。


もう一度右へ。


もう一度左へ。


同じ顔。


同じ髪。


同じ姿。


「…………」


侯爵の目が、わずかに遠くなる。


(……私は昨日まで、一人娘を持つ父親だったはずだ)


現実逃避を始めた。


そのとき。


「お父様!」


悪役レティシアが声を上げた。


「!」


侯爵の肩が跳ねる。


続いて。


「お父様……!」


令嬢レティシアも声を上げた。


「…………」


侯爵の顔が固まる。


同じ声。


同じ呼び方。


同じ娘の声。


しかも。


二人とも、自分を「お父様」と呼んでいる。


「…………」


侯爵は目を閉じた。


そして。


両手で頭を抱えた。


「…………どういうことだ」


誰も答えられなかった。


侯爵の妻、エレノアでさえ。


「…………」


二人の娘を見つめたまま、完全に停止している。


やがて。


エレノアが、ぽつりと呟いた。


「……あなた」


「なんだ」


「私、今朝から少し寝ぼけているのかしら?」


「奇遇だな」


侯爵は頭を抱えたまま答えた。


「私もだ」


「では、二人とも夢を見ているのですね」


「そういうことにしておこう」


「お父様!」


「お父様……!」


また二人の声が重なった。


侯爵は頭を抱える力を、さらに強くした。


「…………夢ではないらしい」


屋敷中の人間が。


誰一人として。


この状況を理解できていなかった。


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