↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
206/208

第4場面「お前が私を追い出した」

しばらくの間。


二人の間に、静かな時間が流れていた。


机の上には、先ほどまで整理していた書類が積まれている。


けれど。


もう、どちらも書類には目を向けていなかった。


令嬢レティシアは、少しだけ迷った。


そして。


静かに口を開く。


「……それでも、王都に戻りたいとは思わないのですか?」


悪役レティシアは、少しも迷わなかった。


「思わない」


即答だった。


「……そう、ですの」


令嬢が小さく頷く。


すると。


悪役は、ほんの少しだけ視線を落とした。


「だって」


一拍。


「お前が私を追い出したから」


「……」


令嬢の表情が止まった。


悪役は、その顔を見ながら。


少しだけ言葉を選ぶように続けた。


「……正確には、あのときのお前が、だけどね」


責めるような声ではなかった。


怒鳴っているわけでもない。


ただ。


事実を口にしているだけだった。


「あのときのお前は、自分の中にあるものを、いらないと思った」


令嬢は何も言えない。


覚えている。


あの日。


王城での断罪を終えたあと。


疲れ切っていた自分が、思ったこと。


怒りたくない。


誰かを傷つけたくない。


嫌われたくない。


もっと優しい人間になりたい。


そして。


自分の中にある「嫌な部分」をなくしたいと思った。


その願いに。


魔女が応えた。


「……」


悪役は、ゆっくりと息を吐いた。


「お前が悪いって言いたいわけじゃないわ」


「……え?」


「私だって分かってる」


悪役は、自分の胸元に手を当てる。


「お前は、自分の中にあるものを『いらない』と思っただけ」


「……」


「怒りっぽいところも」


「意地っ張りなところも」


「人に嫌われても、言うべきことを言うところも」


淡々と。


一つずつ並べていく。


「そういう自分を、変えたかったんでしょう?」


令嬢は、俯いた。


「……はい」


小さな声だった。


「私は……もっと、優しい人になりたかったのですわ」


「うん」


悪役は頷いた。


「知ってる」


だからこそ。


余計に、苦しかった。


悪役は窓の外を見る。


グランフェルの景色。


王都とは違う。


整えられた街並みでもない。


豪華な建物が並んでいるわけでもない。


けれど。


ここには。


自分が生きてきた時間がある。


「でもね」


悪役が言った。


「その結果、私は切り離された」


「……」


「そして、王都から追い出された」


令嬢の指が、膝の上で小さく動いた。


「私は、自分から出ていったわけじゃない」


その声が。


ほんの少しだけ、低くなる。


「捨てられたのよ」


「……」


令嬢の表情が曇った。


その言葉が。


胸の奥に、重く落ちていく。


捨てられた。


そんなつもりはなかった。


そんなつもりでは、なかったのに。


けれど。


結果として。


自分は彼女を切り離した。


自分の中から。


自分の人生から。


そして。


王都から。


「……私……」


令嬢は、何かを言おうとして。


口を閉じた。


「……」


謝るべきなのだろうか。


でも。


今は。


ただ「ごめんなさい」と言えばいいのではない気がした。


悪役レティシアは、そんな令嬢を見ていた。


そして。


ぽつりと。


「だから」


「……?」


「王都に戻りたいとは思わない」


悪役は、窓の外へ視線を戻す。


「ここでは、私が私でいられるから」


令嬢は答えなかった。


ただ。


目の前にいる、自分と同じ顔をしたもう一人の自分を見つめていた。


その人が。


自分の中から切り離された存在なのだということを。


今になって。


改めて思い知らされていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。