第12場面 次話への引き
黒薔薇館の一室。
簡素な木製の机を挟んで。
二人のレティシアが向かい合って座っていた。
窓から差し込む光が、机の上を照らしている。
先ほどまでの緊張は。
もう、少しだけ薄れていた。
悪役レティシアは椅子に深く腰掛け。
腕を組む。
「それで?」
「はい?」
「何から聞きたいの?」
レティシアは、少し考えた。
目の前には。
もう一人の自分がいる。
自分と同じ顔。
同じ声。
同じ記憶。
けれど。
自分の知らない時間を生きてきた人。
何を聞けばいいのだろう。
どこから聞けばいいのだろう。
レティシアは少しだけ悩んで。
そして。
「……全部ですわ」
「……」
悪役レティシアが目を瞬く。
「全部?」
「ええ」
レティシアは微笑んだ。
「あなたが、ここで何をしてきたのか」
悪役レティシアは黙って聞いている。
「誰と出会ったのか」
「……」
「何が好きなのか」
「……」
「何が嫌なのか」
一つずつ。
丁寧に。
知りたいことを並べていく。
そして。
最後に。
レティシアは少しだけ間を置いた。
「あなたは、これからどうしたいのか」
「……」
悪役レティシアの表情が止まった。
その問いは。
今日、何度も聞かれたものだった。
けれど。
今度は。
少しだけ違って聞こえた。
自分を連れ戻すためではない。
自分を説得するためでもない。
ただ。
本当に。
自分の答えを知りたいのだ。
「……」
悪役レティシアは、しばらく黙っていた。
そして。
小さく息を吐く。
「……ずいぶん欲張りね」
レティシアは、くすりと笑った。
「そうでしょうか?」
「ええ」
悪役レティシアは肩をすくめる。
「そんなに一度に聞く人、初めてよ」
「では」
レティシアは少しだけ身を乗り出した。
「ゆっくりで構いませんわ」
「……」
悪役レティシアは。
そんなレティシアを見つめる。
そして。
レティシアは。
ふと思いついたように言った。
「あなたも、私のことを知ってくださいませ」
「……」
悪役レティシアが目を瞬く。
「……私が?」
「はい」
レティシアは頷いた。
「私も、あなたのことを知りたいのですもの」
「……」
「でしたら」
少しだけ笑って。
「あなたにも、私のことを知っていただきたいですわ」
悪役レティシアは。
しばらく何も言わなかった。
やがて。
ほんの少しだけ。
口元が緩む。
「……分かったわ」
そして。
二人は向かい合った。
同じ顔で。
同じ名前で。
けれど。
それぞれ違う時間を生きてきた二人。
今度は。
互いのことを知るために。
ゆっくりと。
言葉を交わそうとしていた。




