↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
185/208

第7場面 「帰りなさい」

「……」


悪役レティシアは、しばらく黙っていた。


先ほどまでとは違う。


目の前の自分が。


本当に自分のことを知ろうとしている。


そんなことが、少しだけ不思議だった。


けれど。


だからといって。


このまま王都へ戻るつもりはない。


悪役レティシアは、小さく息を吐いた。


「……帰りなさい」


レティシアが顔を上げる。


「嫌です」


「……」


悪役レティシアの眉がぴくりと動く。


「またそれ?」


「はい」


「……」


あまりにも迷いがない。


悪役レティシアは、思わずため息をついた。


「あなたね……」


そして。


少しだけ呆れたように続ける。


「王都に帰れば、皆あなたを歓迎するでしょう」


「……」


「家族も」


「……」


「王子も」


レティシアは黙って聞いている。


「クラリスだって」


悪役レティシアは肩をすくめた。


「今のあなたなら、誰もあなたを責めない」


「……」


「私はもう、あなたが嫌われないようにする必要はないのよ」


その言葉に。


レティシアの目が、わずかに見開かれた。


「……私が、嫌われないように?」


「そうよ」


悪役レティシアは当然のように言った。


「あなたは、それをずっと気にしていたでしょう?」


「……」


「相手がどう思うか」


「嫌な顔をされないか」


「怒らせないか」


一つずつ。


指を折るように言葉にしていく。


「私がいなくなったんだから」


悪役レティシアは、少しだけ笑った。


「もう、そんなことを気にする必要はないでしょう?」


「……」


「王都では、あなたは愛される」


その言葉は。


とても簡単だった。


「誰もあなたを責めない」


「……」


「優しいあなたなら、それでいいじゃない」


静かな声だった。


責めるような響きもない。


むしろ。


それが一番いいことだと。


本気で思っているようだった。


レティシアは。


しばらく黙っていた。


そして。


ゆっくりと首を横に振った。


「……いいえ」


悪役レティシアが眉を寄せる。


「どうして?」


レティシアは、胸元に手を添えた。


その奥にある。


あの空白を思い出す。


王都では。


確かに幸せだった。


家族に大切にされた。


周囲の人々に優しくされた。


誰かの役に立てば、喜んでもらえた。


嫌な顔をされないように。


誰かを傷つけないように。


そうしているうちは。


誰も自分を嫌わなかった。


けれど。


「……私は」


レティシアは静かに言った。


「王都で、幸せでしたわ」


悪役レティシアが黙る。


「皆様が優しくしてくださいました」


「……」


「私を大切にしてくださいました」


それは嘘ではない。


だからこそ。


言葉にするのが難しかった。


レティシアは少しだけ目を伏せる。


そして。


「けれど……」


顔を上げる。


「それだけでは、足りませんでした」


「……」


悪役レティシアの表情が止まった。


「愛されていることが、幸せではないというの?」


「いいえ」


レティシアは首を振る。


「愛されることは、とても嬉しいことですわ」


そして。


ほんの少しだけ。


寂しそうに笑った。


「でも……それだけでは」


自分が何を望んでいるのか。


何を嫌だと思っているのか。


何を選びたいのか。


それが分からなくなっていた。


「私は……自分が何をしたいのか、分からなくなっていました」


「……」


「だから」


レティシアは、目の前のもう一人の自分を見る。


「あなたを探しに来たのです」


悪役レティシアは。


何も言えなかった。


「……」


ただ。


先ほどまでとは違う目で。


目の前のレティシアを見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。