第2場面 「……何しに来たの?」
しばらく。
二人は何も言わずに見つめ合っていた。
同じ顔。
同じ声。
同じ記憶を持つ。
それなのに。
目の前にいる相手は、自分とはまるで違って見えた。
やがて。
先に視線を逸らしたのは、悪役レティシアだった。
小さく息を吐く。
そして。
「……何しに来たの?」
その声には、歓迎する気配などまるでなかった。
レティシアは、一瞬だけ言葉に詰まった。
「……」
何と答えればいいのだろう。
王都から来た。
わざわざグランフェルまで来た。
その目的は――。
「……迎えに来ましたわ」
はっきりと答えた。
悪役レティシアの眉が動く。
「……」
そして。
「帰りなさい」
即答だった。
あまりにも迷いがない。
後ろにいたニーナが、そっと目を閉じた。
(やっぱり、こうなりますよね……)
クラリスも、苦笑いを浮かべている。
王都から来た一行の間に、なんとも言えない空気が流れた。
けれど。
レティシアは、悪役レティシアから目を逸らさなかった。
「……」
帰りなさい。
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥に、いつもの感覚が浮かび上がった。
――相手がそう望むなら。
――それが一番いいのではないかしら。
――皆様がよろしいのでしたら。
いつもの自分なら。
きっと、そう答えていた。
けれど。
「……」
レティシアは、静かに息を吸った。
ここへ来るまで。
何度も考えた。
人の話を聞くこと。
相手の気持ちを考えること。
そして。
自分で決めること。
全部、同じではない。
だから。
レティシアは。
「嫌です」
言った。
「……」
悪役レティシアの目が、大きく開かれた。
ニーナも。
クラリスも。
後ろにいた騎士たちも。
一瞬、動きを止める。
そして。
誰よりも驚いていたのは。
「……」
レティシア自身だった。
(私……)
今。
何と言ったのだろう。
「嫌です」
もう一度、頭の中でその言葉を思い返す。
自分から。
相手の言葉を。
はっきりと拒んだ。
これまでなら。
嫌われないように。
相手を困らせないように。
場の空気を悪くしないように。
自分の気持ちを飲み込んでいた。
けれど。
今は違う。
「……」
レティシアは、自分でも少し驚きながら。
それでも。
悪役レティシアを見つめ続けた。
悪役レティシアは、しばらく固まっていた。
そして。
「……あんた」
眉をひそめる。
「今……」
「はい」
レティシアは答えた。
「嫌だと申し上げましたわ」
「……」
悪役レティシアの表情が、さらに複雑になる。
まるで。
自分自身に「嫌」と言われたような。
そんな顔だった。




