↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
179/202

第16話 第1場面 黒薔薇館

グランフェル。


山間の道を抜けた先に、その館は建っていた。


黒薔薇館。


かつては長く使われていなかったというその館も、今では以前より少しだけ手入れされている。


伸び放題だった庭木はある程度整えられ。


崩れていた柵も修繕されていた。


けれど。


王都の貴族邸とは、やはりまるで違う。


庭のあちこちには、見慣れない魔道具。


工具。


木材。


修理途中らしい設備。


そして、何に使うのか分からない金属製の部品まで転がっている。


「……」


レティシアは馬車の窓から、その光景を眺めていた。


ここが。


もう一人の自分が暮らしている場所。


(ずいぶんと……)


言葉を探す。


そして。


「個性的ですわね」


隣にいたクラリスが、くすりと笑った。


「そうですね」


馬車が止まる。


同時に。


庭の中央にいた黒い影が、ゆっくりと顔を上げた。


「……」


大きな黒い魔獣。


漆黒の毛。


鋭い目。


王都の護衛騎士たちの表情が一瞬で強張る。


「……あれが噂の魔獣ですか?」


一人の騎士が、声を潜めた。


ニーナも同じ方向を見る。


「おそらく」


「おそらく?」


「私も実物を見るのは初めてですので」


「……」


騎士たちが無言になる。


クラリスが苦笑した。


「レティシア様が飼っているそうです」


「飼って……?」


騎士の顔が引きつる。


どう見ても。


普通のペットではない。


ノワールはじっと一行を見つめていた。


低く。


「グルル……」


と喉を鳴らす。


騎士たちの手が、反射的に剣へ伸びかける。


「お待ちくださいませ」


レティシアが声をかけた。


「敵意はないようですわ」


「しかし……」


「大丈夫です」


レティシアはノワールを見つめる。


すると。


ノワールの耳がぴくりと動いた。


しばらくレティシアを見て。


そして。


ふい、と顔を背けた。


「……」


騎士たちが固まる。


クラリスが小さく笑った。


「嫌われたのでしょうか?」


「さあ……」


レティシアも少し困ったように笑う。


けれど。


不思議だった。


怖くない。


それどころか。


庭に置かれた道具も。


修理途中の設備も。


雑然とした景色さえも。


なぜか、どこか見覚えがあるように感じる。


もちろん。


レティシア自身がここで暮らしたことはない。


それなのに。


(……あの人が暮らしている場所)


そう思うと。


少しだけ納得できた。


王都の邸宅とは、まるで違う。


整然としていない。


華やかでもない。


けれど。


「……」


レティシアは庭を見渡した。


工具がある。


修理途中の魔道具がある。


誰かが使った跡がある。


ここには。


誰かの生活がある。


そして。


それを作ったのは――。


「……あの人らしいですわね」


思わず口から出た。


クラリスが振り返る。


「そう思われますか?」


「ええ」


レティシア自身も、なぜそう思ったのか分からない。


ただ。


そう感じた。


そのときだった。


「――誰?」


館の扉が開いた。


全員の視線が、一斉にそちらへ向く。


そして。


一人の少女が姿を現した。


「……」


レティシアは息を止めた。


同じ顔。


同じ髪。


同じ声。


自分と、まったく同じ姿。


けれど。


違う。


明らかに違う。


立ち方。


目つき。


表情。


そのすべてが、自分とは違っていた。


目の前にいる少女は、警戒するように一行を見ている。


そして。


レティシアを見つけた瞬間。


その目が大きく見開かれた。


「……」


二人の視線が重なる。


時間が止まったようだった。


レティシアは、目の前の少女から目を離せない。


(私……?)


そう思った。


けれど。


違う。


目の前にいるのは、自分なのに。


自分ではない。


まるで。


鏡を見ているようだった。


けれど。


鏡の中の自分なら。


こんな目をしていない。


こんな立ち方もしない。


こんなふうに。


自分を睨むように見ることもない。


(鏡を見ているのに……)


胸の奥が、不思議にざわめく。


(自分とは思えませんわ)


一方。


悪役レティシアも。


目の前の少女を見つめていた。


同じ顔。


同じ髪。


同じ目。


同じ声。


間違いなく、自分と同じ姿。


けれど。


向こうは、ずいぶんと綺麗に着飾っている。


姿勢もいい。


表情も柔らかい。


見るからに王都の令嬢だ。


悪役レティシアは、しばらく黙っていた。


そして。


心の中で、ぽつり。


(うわ。本当に私と同じ顔……)


思わず、自分の頬に触れる。


向こうも同じように頬へ手を伸ばした。


「……」


二人の動きが、完全に重なる。


そこで。


悪役レティシアの眉がぴくりと動いた。


(……やっぱり私だ)


レティシアも同じことを思っていた。


(……本当に、私ですわ)


同じ記憶。


同じ名前。


同じ人生。


そのはずなのに。


目の前にいるのは。


自分の知らない自分だった。


そして。


二人はしばらく。


何も言わずに、向かい合っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。