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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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Scene 17 翌朝

――翌朝。


ヴァレンフォール侯爵邸。


いつもと変わらない、静かな朝だった。


柔らかな朝日が、レティシアの部屋へ差し込んでいる。


窓辺のカーテンが、風に揺れていた。


屋敷の使用人たちは、いつものように朝の仕事を始めている。


その中で。


一人の侍女が、レティシアの部屋へ向かっていた。


手には朝の紅茶。


今日もいつも通り。


何も変わらない一日が始まる。


――そのはずだった。


「レティシアお嬢様、お目覚めの時間でござい――」


侍女が扉を開ける。


そして。


言葉が止まった。


「…………」


部屋は静かだった。


朝日が差し込むベッド。


整えられた家具。


昨日までと何も変わらない、レティシアの部屋。


ただし。


一つだけ。


決定的に。


あり得ないものがあった。


ベッドの上。


そこには――。


「…………」


レティシアがいた。


一人。


そして。


「…………」


もう一人。


いた。


二人とも、同じ顔。


同じ髪。


同じ年齢。


同じ寝間着。


何もかもが同じ。


違うのは――。


一人は、穏やかな寝顔で眠っている。


まるで天使のように、安らかな表情。


もう一人は。


「…………」


眉間に、深い皺を寄せていた。


腕まで組んでいる。


寝ているというのに、何かに怒っているような顔だった。


侍女は動かなかった。


紅茶を持ったまま。


ただ。


見つめる。


二人のレティシアを。


「…………」


長い沈黙。


やがて。


ベッドの上で、片方が身じろぎした。


「ん……」


同時に。


もう片方も目を開ける。


二人の瞳が、同時に開いた。


「…………」


「…………」


目が合う。


数秒。


二人とも、黙って相手を見つめた。


そして。


穏やかな方が、にっこりと微笑んだ。


「おはようございます」


とても優しい。


とても上品な。


いつものレティシアらしい挨拶だった。


その隣で。


もう一人が眉をひそめる。


「……誰よ、あんた」


「…………」


侍女の手から、カップが落ちそうになった。


穏やかなレティシアが、目を丸くする。


「それはこちらの台詞ですわ!」


「はぁ?」


「あなたこそ、どうして私の部屋にいるのです!」


「私の部屋でしょうが」


「いいえ、私の部屋ですわ!」


「何言ってんのよ!」


「あなたこそ何をおっしゃっているのです!」


「…………」


「…………」


二人のレティシアが睨み合う。


まったく同じ顔。


まったく同じ声。


なのに。


片方は柔らかな笑顔。


もう片方は、ものすごく不機嫌。


その光景を見ていた侍女は。


ようやく。


理解した。


いや。


理解してしまった。


「…………」


手が震える。


紅茶の香りが、やけに遠く感じる。


昨日。


お嬢様は王城へ呼ばれていた。


婚約破棄。


断罪。


そして――。


帰ってきていない。


なのに。


今。


部屋には。


「…………」


二人いる。


侍女は、ゆっくりと後ずさった。


二人のレティシアが同時にこちらを見る。


「どうしましたの?」


「何よ?」


侍女の顔が引きつった。


そして。


次の瞬間。


「レティシア様が二人いらっしゃるーーーっ!!」


屋敷中に。


侍女の絶叫が響き渡った。


――第一話・完。


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