Scene 16 呪い
パチン。
エルヴィラが指を鳴らした。
その瞬間だった。
世界が――白くなった。
「……え?」
何も見えない。
床も。
壁も。
エルヴィラも。
クロも。
すべてが、真っ白な光に包まれていた。
音さえも消えている。
自分の呼吸すら聞こえない。
ただ、レティシアは立っていた。
いや。
立っているのかどうかさえ、もう分からない。
そんな中で。
ふと。
胸の奥に、何かが生まれた。
「……?」
淡い光だった。
胸の中心から、ゆっくりと浮かび上がってくる。
白い光。
それは、とても暖かかった。
優しくて。
柔らかくて。
誰かに抱きしめてもらったような、安心する光。
そして、そのすぐ隣に――。
もう一つ。
黒い光が生まれた。
「……なに?」
白と黒。
正反対の二つの光が、レティシアの胸の中で揺れている。
そして。
レティシアには、その光が何なのかが分かった。
言葉になっていない。
けれど。
確かに、理解できた。
白い光から、声が聞こえる。
――愛されたい。
レティシアは目を見開いた。
それは、ずっと胸の奥にあった願いだった。
嫌われたくない。
誰かに必要とされたい。
誰かに優しいと思われたい。
誰かに愛されたい。
その気持ちが、白い光になっている。
そして――。
黒い光。
そこからも、声がした。
――自分を守りたい。
「……!」
レティシアの息が止まる。
怒り。
誇り。
譲れないもの。
負けたくないという気持ち。
嫌なことを嫌だと言う心。
間違っていることに、間違っていると言う強さ。
誰かに踏み込まれたとき、自分自身を守ろうとする心。
それらが、黒い光の中にあった。
「違う……」
レティシアは首を振った。
「違いますわ……」
どちらも自分だった。
そんな気がする。
なのに。
二つの光は、ゆっくりと離れていく。
「待って……」
手を伸ばす。
届かない。
白い光が遠ざかる。
黒い光も遠ざかる。
まるで、今まで一つだったものを、無理やり引き裂くように。
「待って……!」
レティシアの声が響いた。
二つの光が、完全に分離する。
その瞬間。
胸の奥が、空っぽになった。
「……なに、これ……」
震える声が漏れる。
その問いに答えたのは、エルヴィラだった。
いつの間にか、真っ白な世界の中に魔女が立っている。
その顔には、いつもの笑み。
「あなたの願いを叶えているのよ」
「……私の……願い?」
「ええ」
エルヴィラは、白と黒。
二つに分かれた光を見つめる。
「あなたが、いらないと言ったものを」
その言葉を最後に。
世界が――。
暗転した。




