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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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Scene 15 決断

レティシアは、しばらく黙っていた。


目の前の魔女を見つめる。


本当に、この女の言葉を信じていいのだろうか。


突然現れた魔女。


人の嫌な部分を消してしまうという、あり得ない申し出。


普通なら、断るべきだ。


そう思う。


けれど――。


レティシアの胸の中には、すでに答えがあった。


なくしたい。


自分の中にある、この嫌な部分を。


怒ってしまうところ。


譲れないところ。


間違っていると思ったことを、間違っていると言ってしまうところ。


誰かに嫌な顔をされても、自分の考えを曲げられないところ。


それが正しいのかもしれない。


そう思ったことも、何度もあった。


けれど。


それで嫌われた。


それで傷ついた。


そして今日。


自分は「悪役令嬢」と呼ばれた。


だったら――。


もう、そんな自分でなくてもいいのではないか。


レティシアは、ゆっくりと口を開いた。


「……それで」


エルヴィラが首を傾げる。


「もう、誰にも嫌われなくなるのでしょうか?」


ほんの少しだけ。


期待するような声だった。


エルヴィラは、にっこりと笑った。


「たぶんね」


「…………」


「おい、魔女」


横からクロの冷たい声が飛んできた。


「そこは断言するところじゃないだろ」


「そう?」


「そうだよ」


クロは呆れたように尻尾を振った。


「人間関係なんて、お前が何をしようがどうなるか分からないだろ」


「だって」


エルヴィラは悪びれることなく言った。


「未来なんて分からないもの」


「じゃあ、たぶんって言うなよ」


「だって、たぶんなんだもの」


「お前は魔女だろうが」


「魔女でも未来は分からないわ」


「…………」


クロが黙った。


なんとも言えない沈黙が、廊下に落ちる。


レティシアは思わず――。


「ふふっ」


小さく笑った。


こんな状況なのに。


断罪されたばかりで。


婚約も失って。


大勢の人から悪役令嬢と呼ばれて。


人生で一番疲れているはずなのに。


目の前の魔女と黒猫のやり取りが、妙におかしかった。


「……未来なんて、分からない」


レティシアは呟く。


そして、自分の手を見つめた。


「そうですわね」


誰にも嫌われない人生。


誰からも愛される人生。


そんなものが本当にあるのかなんて、分からない。


自分から嫌な部分をなくしたところで、すべてが上手くいく保証もない。


それでも。


それでも――。


「……お願い」


レティシアは顔を上げた。


今度は、迷わなかった。


「私の嫌なところを……なくしてください」


それは、誰かに強制された願いではなかった。


誰かにそそのかされたわけでもない。


レティシア自身が。


今の自分を嫌いになった、その心から出た言葉だった。


エルヴィラは、静かに微笑んだ。


「いいわ」


そして――。


パチン。


魔女が指を鳴らした。


その瞬間。


廊下の空気が、変わった。


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