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悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


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第11場面 出発直前の問い

馬車に乗り込もうとした、そのときだった。


レティシアは、ふと足を止めた。


そして、一度だけ。


ゆっくりと王都を振り返る。


見慣れた街並み。


幾度となく通った大通り。


幼い頃から暮らしてきた侯爵邸。


そして、その先にある王宮。


そこには、レティシアが長い間守ろうとしてきたものがあった。


家族。


王宮。


アルベルト。


クラリス。


貴族たちとの関係。


社交界での立場。


誰かに嫌われないように。


誰かの期待を裏切らないように。


誰かに必要とされ続けるように。


そうして、少しずつ積み上げてきた自分の居場所。


そのすべてが、今も王都の中にある。


(私は、ここから離れるのですわね)


胸の奥が、ほんの少しだけ痛んだ。


寂しいのかもしれない。


不安なのかもしれない。


それとも。


今まで大切にしてきたものを、自分の手で置いていくことへの戸惑いなのかもしれない。


けれど。


逃げるためではない。


誰かに追い立てられたからでもない。


誰かに命じられたからでもない。


自分が決めたから、ここを離れる。


その事実が、今までとは違う重さで胸に残っていた。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


馬車のそばに立っていたニーナが、声をかける。


レティシアは、すぐには答えなかった。


王都の景色を見つめたまま、少しだけ考える。


ここで過ごした時間は、決して嘘ではなかった。


家族を大切に思う気持ちも。


アルベルトを案じたことも。


クラリスと分かり合いたいと思ったことも。


社交界で居場所を失いたくなかったことも。


すべて、本当の自分の気持ちだった。


ただ。


それだけでは、足りなかったのだ。


レティシアは、ようやくニーナへ顔を向けた。


「いいえ。ただ……」


一度、言葉を切る。


それから、王都を振り返ったまま静かに告げた。


「初めて、自分で行き先を決めた気がしますわ」


ニーナは、何も言わなかった。


ただ、レティシアの横顔を見つめ。


やがて、静かに微笑んだ。


その微笑みは、肯定するようでもあり。


送り出すようでもあった。


レティシアは小さく息を吸い、馬車へ乗り込む。


座席に腰を下ろしてから、もう一度だけ窓の外を見る。


ニーナが続いて乗り込んだ。


扉が閉じられる。


御者が手綱を引く。


馬車が、ゆっくりと動き始めた。


王都の景色が、少しずつ後ろへ流れていく。


レティシアは、もう振り返らなかった。


前を向いていた。


その先に何が待っているのかは、まだ分からない。


もう一人の自分が、どんな顔で迎えるのかも。


何を言われるのかも。


それでも。


今度は、自分で選んだ道を進む。


馬車は、王都の外へ向かって走り出した。


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