第6場面 鋭さと嫌われること
レティシアは、書類に書かれた自分の言葉を見つめていた。
そこにあるのは、冷たいだけの人間の言葉ではなかった。
誰かを困らせたくて、反対していたわけではない。
王都の財政を。
北部の領地を。
そこで暮らす人々の生活を。
その先にある未来を。
かつての自分は、考えていた。
だからこそ。
問題を見つければ、放っておけなかった。
危険だと思えば、反対した。
必要だと思えば、誰かに嫌な顔をされても、最後まで調べた。
けれど。
「……」
その言い方は、厳しかった。
相手の事情を聞くより先に、問題点を指摘した。
相手の気持ちを考えるよりも、被害を減らすことを優先した。
譲らなかった。
引かなかった。
正しいと思ったことを、正しいと言い続けた。
だから。
嫌われたのだ。
その事実を、レティシアは理解している。
自分の言葉が、誰かを傷つけたことも。
自分の態度が、誰かの反感を買ったことも。
決して、なかったことにはできない。
「……私は、嫌われるような人間だったのですね」
ぽつりと呟く。
父は、否定しなかった。
けれど。
レティシアは、書類の上に残された一文へ視線を戻した。
――本案は、現時点では承認すべきではありません。
その言葉は、厳しい。
けれど、間違ってはいない。
かつての自分は。
誰かに好かれるためではなく。
誰かを困らせるためでもなく。
必要だと思ったから、こう書いたのだ。
「……」
ふと。
レティシアの中に、別の疑問が浮かんだ。
嫌われた理由と。
失ってはいけなかったものは。
本当に、同じだったのだろうか。
厳しい言い方をしたこと。
譲らなかったこと。
相手の感情より、問題の解決を優先したこと。
それらが、嫌われた理由だったとしても。
だからといって。
問題を見つける力まで。
正しいと思ったことを言う力まで。
失う必要があったのだろうか。
「……」
レティシアは、口を開きかけた。
けれど、言葉にはならなかった。
何かに気づきかけている。
そんな気はする。
けれど、それが何なのか。
まだ、はっきりとは分からない。
ただ。
書類の上に残された、かつての自分の文字が。
今までとは少し違って見えた。




