↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
144/176

第4場面 今の自分には思いつかない

レティシアは、もう一度書類に目を通した。


北部諸侯領の収穫量。


街道の状態。


備蓄量と過去の税収記録。


並べられた数字を追い、そこから導き出された結論を読み返す。


どこにも、間違いはなかった。


むしろ。


今の自分でも、内容は理解できる。


なぜ、この徴税案が危険なのか。


どこに問題があるのか。


このまま進めば、何が起こる可能性があるのか。


書かれていることを読めば、納得できた。


けれど。


「……」


もしも。


この書類と同じものを、自分で作れと言われたら。


必要な資料を探し。


数字を集め。


問題点を整理し。


最後に、はっきりと反対意見を記す。


今の自分に、それができるだろうか。


レティシアは、しばらく黙ったまま書類を見つめていた。


やがて。


ぽつりと、口を開く。


「……こんなこと、今の私は思いつきませんわ」


父は、すぐには答えなかった。


レティシアは、書類の端を指でなぞる。


「内容は分かります。間違っているとも思いません」


「……」


「けれど、以前の私は……どうして、ここまで調べようと思ったのでしょう」


父は、黙って彼女の顔を見た。


その問いに答えるには。


今のレティシアは、あまりにも静かすぎた。


以前の彼女は。


問題を見つけると、放っておけなかった。


誰かが困る可能性があるなら、先回りして調べた。


まだ何も起きていなくても。


起きてからでは遅いと思えば、必要な情報を集めた。


誰かに面倒だと言われても。


生意気だと笑われても。


その判断が必要だと思えば、最後まで調べ続けた。


そして。


間違っていると思ったことには、はっきりと口にした。


――これは危険です。


――このままではいけません。


――変えるべきです。


嫌われるかもしれない。


反感を買うかもしれない。


それでも。


言わなければならないことなら、言った。


けれど、今のレティシアには。


問題を理解することはできても。


そこから一歩踏み込むことができなかった。


危険だと分かっている。


問題があることも分かっている。


それなのに。


「変えるべきです」と言う力がない。


「それは間違っています」と告げる勇気がない。


いや。


勇気の問題ですらないのかもしれない。


そう言うべきだという考えそのものが、どこか遠くなっている。


レティシアは、書類を見つめたまま呟いた。


「……分かるのに」


その声は、ひどく小さかった。


「分かるのに……どうして、私は何も言えないのでしょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。