第2場面 以前の自分の文字
書類を開く。
そこには、かつてのレティシアが作成した政治分析が記されていた。
王都の財政不足。
北部諸侯領への臨時徴税。
その二つを結びつけた、詳細な意見書だった。
――王都の財政が厳しいことだけを理由に、徴税を決定するのは危険である。
レティシアは、ゆっくりと目を走らせていく。
北部諸侯領では、すでに凶作が続いている。
加えて、輸送費も高騰している。
各領地には、増税を受け入れるだけの余力がない。
無理に税を取り立てれば、一時的に王都の収入は増えるかもしれない。
けれど。
その結果、領地の生産力が低下すれば。
将来的に失われる税収のほうが、大きくなる可能性がある。
「……」
レティシアは、次のページをめくった。
そこには、領地ごとの状況を調査したうえで、徴税額を決めるべきだと書かれていた。
一律に負担を課すのではなく。
収穫量。
輸送経路。
備蓄の状況。
民の生活。
それぞれを確認し、無理のない方法を取るべきだと。
さらに、その先には王家への信頼についても触れられていた。
王都の不足を地方へ押しつければ。
今は従う諸侯たちも、いずれ王家に不信を抱くかもしれない。
目先の帳尻を合わせるために、長期的な関係を損なうべきではない。
だからこそ。
臨時徴税よりも、物流の改善と備蓄の拡充を優先するべきだと。
書類の上には、数字と事実が並んでいた。
感情的な言葉は、ほとんどない。
王都を責めるわけでもない。
北部諸侯をかばうわけでもない。
ただ、何が起きているのか。
このまま進めば、何が起こり得るのか。
それを冷静に整理し、問題点を明確に指摘している。
そして。
最後の一文に、レティシアの視線が止まった。
> 「本案は、現時点では承認すべきではありません」
「……」
レティシアは、目を見開いた。
そこに書かれているのは、間違いなく自分の文字だった。
筆跡も。
文章の癖も。
数字の並べ方も。
すべて覚えている。
これは、かつての自分が書いたものだ。
けれど。
今の自分には、同じ内容をここまで明確にまとめられる気がしなかった。
もちろん、書かれていることは理解できる。
読めば、どこに問題があるのかも分かる。
けれど。
自分からこの問題を見つけ。
必要な情報を集め。
反対意見として形にし。
最後に、はっきりと否定する。
そんなことが、今の自分にできるだろうか。
レティシアは、書類を持つ手に力を込めた。
「……これが、私の文字」
声に出してみても。
胸の奥は、静かなままだった。




