第9場面 分からない
レティシアは、鏡から離れて机の前へ移動した。
机の上には、明日の予定表が置かれている。
朝は社交会。
昼は王宮での仕事。
その後、アルベルトとの面会。
どれも、いつも通りの予定だった。
嫌なものはない。
どれもきちんとこなせる。
誰かに会うことも。
仕事をすることも。
アルベルトと話すことも。
レティシアは予定表を見つめたまま、首を傾げた。
「……何がしたいのかしら」
口にしてみる。
けれど、答えは返ってこなかった。
社交会に行きたいのか。
行きたくないのか。
王宮で仕事をしたいのか。
別のことをしたいのか。
アルベルトに会いたいのか。
少し休みたいのか。
どれも、はっきりしない。
レティシアは、困ったように笑った。
「変ですわね」
以前なら、すぐに分かった。
嫌なことなら、なおさらだった。
これは嫌。
それは違う。
こちらのほうがいい。
そう思えば、すぐに言葉にできた。
たとえ誰かに嫌な顔をされても。
たとえ、冷たいと言われても。
自分が何を考えているのかだけは、分かっていた。
けれど。
今は――。
「……」
レティシアは、予定表の端を指でなぞった。
どの予定にも、問題はない。
どれも悪くない。
だからこそ。
どれを選びたいのかが、分からなかった。
「私は……」
小さく呟いて、口を閉じる。
その先に続く言葉が、見つからない。
レティシアは、予定表をそっと伏せた。
まるで。
そこに答えが書かれていないことを、認めたくないように。




