第8場面 クラリスの言葉
――本当に幸せですか?
昼間のクラリスの声が、再び脳裏に蘇った。
レティシアは、鏡の前でじっと座っていた。
「幸せです」と答えた。
あのときは、何の迷いもなかった。
けれど。
どうして自分は、そう答えたのだろう。
レティシアは、ゆっくりと考え始めた。
アルベルトに愛されているから。
家族に大切にされているから。
クラリスと仲良くなれたから。
誰からも嫌われていないから。
一つずつ、思い浮かべていく。
どれも、確かに幸せなことだった。
けれど。
レティシアは、ふと気づいた。
(……あら?)
その幸せは、すべて。
誰かが自分に与えてくれたものだった。
アルベルトが優しくしてくれる。
家族が大切にしてくれる。
クラリスが笑いかけてくれる。
周囲の人々が、好意を向けてくれる。
自分から何かを選んだわけではない。
自分で何かを望み、手に入れたわけでもない。
ただ。
誰かから与えられるものを、嬉しいと思っていた。
「……」
レティシアは、鏡の中の自分を見つめる。
白百合の令嬢。
誰からも好かれる、理想的な自分。
けれど。
その自分は、何を望んでいるのだろう。
何をしたいのだろう。
何を選びたいのだろう。
(私は……)
胸の奥に、初めて問いが浮かんだ。
(自分が何を望んでいるのかしら)
問いかけても。
すぐには、答えが出てこなかった。




