第7場面 小さな疑問
レティシアは、再び鏡の中の自分を見つめた。
白い肌。
整えられた髪。
穏やかな表情。
そこにいるのは、誰からも好かれるようになった自分だった。
魔女に願った通りの姿。
レティシアは、鏡に映る自分へ向かって、静かに呟いた。
「……だったら」
その先の言葉が、なかなか出てこなかった。
しばらく黙ったあと。
レティシアは、ほんの少し眉を下げる。
「どうして、こんなに寂しいのでしょう」
言葉にした瞬間。
部屋の静けさが、いっそう深くなった気がした。
レティシアは、慌てたように首を振る。
「……いえ」
誰に言い訳するでもなく、言葉を続けた。
「寂しいだなんて、おかしいですわね」
アルベルトは優しい。
家族も、自分を大切にしてくれている。
クラリスとも仲良くなれた。
誰からも嫌われていない。
それなのに、寂しいと思うなんて。
「私が、贅沢を言っているだけなのかもしれませんわ」
レティシアは、鏡の中の自分に微笑みかけた。
けれど、その笑顔は昼間のものより、ずっと弱々しかった。
幸せなのに。
何も不満などないはずなのに。
満たされないと感じてしまう。
――悪いのは、きっと自分のほうだ。
「これ以上、何を望むというのでしょう」
そう呟いてから、レティシアは目を伏せた。
望むものなどない。
ないはずだった。
だから。
この寂しさも、すぐに消える。
そう思おうとした。
けれど。
鏡の中の自分は、何も答えてくれなかった。




