第4場面 一人になった瞬間
夜。
レティシアの自室には、静かな時間が流れていた。
昼間まで聞こえていた人の声も、もうない。
窓の外には、王都の夜景が広がっている。
レティシアは鏡の前に座っていた。
鏡の中には、いつもと変わらない自分がいる。
整えられた髪。
上品なドレス。
そして――。
柔らかな笑顔。
昼間、クラリスと話していたときと同じ笑顔だった。
「……」
レティシアは、しばらく自分の顔を見つめていた。
今日も、何も問題はなかった。
クラリスとも仲良く話せた。
アルベルトも優しかった。
誰からも嫌われていない。
幸せだと、そう答えた。
もちろん。
幸せなのだ。
そう思っている。
なのに。
ふと。
笑顔が消えた。
「……」
本人にも、その理由は分からなかった。
ただ、何となく。
胸元に手を当てる。
指先に触れるのは、何も変わらない自分の体。
けれど。
胸の奥に、妙な感覚があった。
痛いわけではない。
苦しいわけでもない。
悲しいわけでもない。
ただ――。
何かが、足りない。
「……どうしてでしょう」
静かな部屋に、レティシアの声だけが落ちた。
もちろん、返事はない。
レティシアは鏡の中の自分を見る。
「……」
何を考えているのか、自分でも分からない。
昼間なら、きっと笑って誤魔化していた。
けれど。
今は一人だった。
誰にも見られていない。
誰にも気を遣う必要もない。
だからこそ。
胸の奥に浮かんだ言葉を、そのまま口にした。
「何かが……足りませんわ」
言葉にしてみても。
やはり、何が足りないのかは分からなかった。
レティシアはしばらく黙っていた。
そして。
「……何が、足りないのでしょう」
鏡の中の自分に問いかける。
けれど。
白百合の令嬢は、何も答えてくれなかった。




